熊本地震で被災された方にお見舞い申し上げます。
「どうでもいい」とか言っておきながら、いざ観戦すると印象的な事があった。…勿論(?)結果についてではない(自分は「結果でしか物事を判断できないアホ」ではないつもり)。それは「時間の使い方」。
PONANZA(気が付くと全部大文字表記になっているが、これこそ「どうでもいい」事だと思う)は初手▲2六歩に15分くらい考えて(?)いる。初手(あるいは2手目=後手の初手)にこんなに時間をかける棋士は自分の知る限り加藤一二三九段くらいだと思うが、加藤九段の場合は(携帯中継のコメントを見ていると)「集中力を高めている」事が多いと思う。しかしCOMに「集中力を高める」なんて概念は存在するわけがない(あったらあったで面白いかも知れないが…)。当然「手を読んでいる」のだろうが、中盤~終盤で手の可能性が限られる局面ならともかく序盤、しかも初手の時点で一体何をどこまで読むのだろうと思う。力戦形を好むPONANZAゆえの特性なのかも知れないし、(大局観というアナログな要素を評価関数というデジタルな数字で考える)COMならではの特性なのかも知れないし… ま、「どうでもいい」のだが(笑)。
そんなPONANZAだが、1日目の封じ手(40手目)時点の消費時間は▲1時間50分△5時間08分(※1)。…思わず溜息をついてしまった。プロの公式戦(2日制のタイトル戦)の封じ手時点でこんなに消費時間に差がついた将棋は自分の記憶にない(過去にはあったのかも知れないが)。人によっては「勝敗以上の屈辱だ」、と考えるかも知れない。森下九段は常々「人間vs人間のルールで人間vsCOMを戦うこと自体に無理がある」と仰っているが、棋力はともかく消費時間(≒読みの時間)でここまで差をつけられると現行の電王戦の(人間vs人間に近い)ルールではもはやどうにもならないのかも知れない。もし第2局も同じような事(勝敗ではなく消費時間)になった場合、冗談でなく「人間vsCOMの大きな転換点」を迎えるのかも知れない。
…この「消費時間に大差をつけられる」、というより「持ち時間をあえて使わず早指しされる」事はアマチュアの(勿論人間同士の)将棋だと時折見受けられる。俗に言う「時間攻め」…とは少し違う。時間攻めは秒読み(あるいは切れ負け寸前)の相手に読む時間を与えない(ミスを誘発させる)ための戦術(?)だが、この場合「まだ相手の考慮時間が十分にある」ので。
…こういう指し方は「使える時間が十分にあるのにあえてそれを使わない」という余裕を見せる(?)事で「相手を挑発する(それで心理的に揺さぶってミスをさせる)」という意味合いが強いと思う。たとえそれが無意識の行動であったとしても(※2)。
…ではこのような戦術(?)に対してこちらが取るべき手段は何か。…人によっては気後れしないように「こちらも早指しで迎え撃つ」という人もいるだろうが、最善なのは「あくまで自分のペースを貫く」だと思う。先ほど「無意識の行動であったとしても」という言葉を使ったが、実際のところは「無意識にやっている人の方が多い」と思うので(※3)、いちいち反応していたら(対策を講じていたら)まともに将棋が指せないと思う。あるいは「いつも以上に長考する(例えば秒読みは「理論上この一手」という局面でも全て28や29で指す)」事で逆に相手を焦らす、という手もあるが、慣れない人がこれをやると逆に「自分が焦れる」のであまりおススメできない(笑)。
自分(DJカートン)は早指し派か長考派か、と聞かれたらこれは間違いなく「長考派」である。24で持ち時間15分で指していると(※4)ほとんどの場合で相手より先に持ち時間を使い切る。下の表(画像)は自分の直近20局(勿論早指しは除く)の持ち時間の使用状況だが、実に「マイペース」である(笑)。
「自分」…自分(DJカートン)が15分を使い切った時の手数
「時間」…その時の相手の残り時間、青文字は相手が先に使い切った対局(つまり自分の残り時間)
「相手」…相手が15分を使い切った時の手数、空欄は使い切らずに終局
「終局」…その対局の総手数
「残り」…終局時に残った持ち時間、投了時に使用した時間は含まない
一応「戦形」も調べたが、直接の因果関係はなさそうである(※5)。
全局で100手以内に持ち時間を使い切っている。自分より先に相手が使い切った将棋は20局中3局しかなく(いずれも直に自分も使い切り)、相手が15分使い切らなかった将棋も4局ある(こちらが全部勝ち)。反対に自分が時間を残して終わった将棋は1局もない。短手数の将棋ならもう少し時間が残るだろうが、これは自分の棋風が基本的に持久戦調、「短期決戦必至の派手な応酬」より「手数がかかっても堅実な指し回し」を好む棋風なので仕方ない(そんな事のために棋風を変える人など存在しない)。
…こんな(常に秒読みされている)将棋ばかり指しているので(この表からは読み取れないが)秒読みも時間いっぱいまで使う事が多い(それでも「9」まで読まれる事はほとんどない。…って、こんなところにも「森下イズム」が)。表を見ると早指し派(こちらが使い切った時にまだ5分以上残している人)相手の勝率が高いが、これはこうした自分の対局スタンスに相手が焦れて勝手に転んでいるからなのかも知れない(笑)。
※1…最終的には▲5時間07分△7時間09分。
※2…プロの対局では「長考半返し」といって直前に相手が長考で使った時間の半分くらいを自分の手番で使う、という風習(?)があるそうだが、これはこのような「挑発されている」という思いを相手にさせないための配慮ではないかと思う(全ての棋士がそうしているわけではないし、当然ながらCOMにそのような「配慮」という概念はあるわけがない)。
※3…例えば子供は概して早指しであるが、「子供が早指しなのはまだ『考える材料』が少ないから」(佐藤康光九段の著書『長考力』より引用)どうにもならないと思う。
※4…早指は「2」も含めてほとんど指さない(挑戦も受けない)。ただこれだと体が「60秒の秒読み」に順応してしまう(アマチュアの大会はほとんどが秒読み30秒)のが悩ましい。せめて早指の最初の持ち時間が5分でもあれば、と思う(24のアンケートがあるたびに必ず要望として書いている)のだが…