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それって早い話「金儲けのための忖度」って事では。

2014年春・順位戦解説会

4月12日、タイトルにあるイベントに参加。
何せ4ヶ月前から待ちに待っていたイベントので、突発的に発生した前週の東上とは違って1ヶ月以上前から入念に予定を組んでいる。往復の交通手段、宿泊場所、時間の使い道、その他…

…数日前から気になっていた事。
「当日の森下九段の服装は?」
つまり、「普段どおりの背広」「電王戦当日と同じ和服」を着ての登場か、という疑問。個人的には後者を期待していたのだが、残念ながら(?)前者での登場。何でも当日の午前中にも取材を受けていて、しかも解説会後17時30分に記者会見の為に連盟に集合というスケジュールになっていたため、和服着用というわけにはいかなかった和服を着ていると「自分だけ目立ってしまう」)、との事。

島九段の
「今期の森下さんは3連勝と絶好のスタートを切ったわけで・・・」
という挨拶に会場からは拍手。 …って、いつの間に3つも勝ったの? と思った。
1つは間違いなく勝っている。4月8日の王位リーグ。その携帯中継では「今年度、公式戦は初対局」とある(今更言うまでもない事だが、5日の電王戦は「公式戦」ではない)。
そして解説会当日は12日、しかし連盟HPの「対局結果」には前述の王位リーグしか結果が載っていないしかし「今年度成績一覧」を見るとちゃんと「3戦3勝」となっている(※1)。
…業界に詳しい人なら御存知だと思うが、テレビ放映される棋戦(NHK杯と銀河戦収録日=対局日」として公式記録が残る(※2)。つまり、森下九段は4月9日~11日(2日連続となる9日はさすがになさそうだが)の間にテレビ棋戦(…短期間に2局なので銀河戦か?)の対局(収録)を2局行って2勝した事になる。

それはそれでめでたい話であるが、まずは目前の解説会。何しろ前述のように後ろに記者会見が控えているのであまりのんびりできないいつもだったら最初の対局の解説までに1時間くらいの濃密トークがあるのだが、この日はわずか10分くらいで棋譜解説が始まってしまった。そしてその事実に一番驚いていたのが他ならぬ島九段だった(笑)。

1局目は勿論と言うべきか、先日の電王戦第4局
…と、その前に、やはり気になるというか「電王手くん」の話が出た。今回の電王戦に出場する棋士に対して事前に説明会みたいのが行われたそうだが、森下九段も特別な違和感は感じなかったそうである(「これも仕事だから」という割り切りの心もあったらしいですが…)。
ただ、参加者が一様に気にしていたのが「電王手くんが駒を落とす可能性」。人間は緊張や動揺などで駒を持つ手が震える(駒を落としたり盤を乱したりする)事が往々にしてあるわけだが(羽生三冠のものは夙に有名)、COMには緊張とか動揺という概念はないので、もし駒を落とすとしたら機械の不具合以外にありえない。
何だかんだ言っても所詮は機械なのでトラブルの可能性は考慮しても(そのために代理で着手する奨励会員が控えていた)、しょっちゅうトラブっていたのではさすがに棋士への影響(集中を乱す可能性)が大きい。しかし、その説明会で説明されたスペックによると
「電王手くん(厳密にはその元となったロボットアーム)は                        」
…その動作をしているところが想像できないが、それを聞いた森下九段は電王手くんが駒を落とす可能性は皆無だと確信したそうである。

実戦は相矢倉となったわけだが(研究では▲7六歩△3四歩に▲2六歩=角換わり、▲5六歩=先手中飛車とする事もあったそうである)、一見無策(?)に見えるこの選択にもちゃんとした理由があるそうで。
ある日船江五段(第2回電王戦でツツカナと対戦)から
「角交換振り飛車がいい(勝ちやすい)みたいですよ」(★1)
というアドバイスを受け、実際にそれを本番で用いようと考えた事もあったそうである。しかし、ある日「角交換振り飛車vs森下九段」の感想戦で「ここはこう指すべきだった」という局面をツツカナにかけたところツツカナは1秒でその手を指した(見つけた)事でこれを用いるのをやめた、…で、消去法(?)でもっとも勝ちやすい(自分の力が出せる)戦法、という事で相矢倉を選択した、との事である。

いざ始まるとよくある定跡形の矢倉「新24手組み」に。一見して定跡という名前の舗装された道を淡々と進んでいるようだが、森下九段の解説、(事前研究では見られたが)実際の対局には現れなかった変化手順などを聞くと改めて
「将棋(特に相矢倉)には無限の可能性(理論上は無限ではないのだが)があるんだな」
と思う。

まず出だしの5手目の局面(下図)、今では▲6六歩(※3)が大多数だが、ツツカナは結構な確率で5手目▲7七銀と上がる言わば「旧式」の手を指す事もあったようで、もしそうされた時は急戦で行こう、と考えていたそうである。
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他にも33手目の▲1五歩(下図)も事前研究では『▲1八飛』と指す事もあったとか(2手前の▲1六歩もプロの実戦例では圧倒的に▲8八玉が多いところだが「ツツカナは▲1六歩が多い」)、もしこれらの(実戦に現れなかった)手が実戦に現れていたら、と考えると電王戦は麻雀のような「運要素のあるゲームでの一発勝負」に近いものがあるのかも知れない、極端な言い方をすると「現行の電王戦のありかたそのものに無理がある」、などと思えてしまう。
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…電王戦のありかたはともかく(笑)、局面は中盤の難所へ。
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1手前の△8六歩に▲同歩は△8五歩の継ぎ歩で攻めが続くので▲同銀は当然としても、ここでの△5九角が減点対象で、当然ながら(?)△8六同角と踏み込むべきだった、との事。
以下▲8六同歩△5九銀▲5八飛△6八銀成▲同飛△8七歩(下図)。ここで▲同玉なら△5九角(飛車が逃げると△8六角成~△8一飛)で後手が良いが、▲7八玉とかわされた時の「△8一飛」が実戦では見えなかった、との事。
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こうして外野目線(対局者以外、または終局後)で言うのは簡単だが(まして今の手順は森下九段の解説のコピーだし…)、△8六同角と敢然と踏み込んだ数手後の△8一飛と「じっと力を溜める手」というのは実戦心理としてはなかなか見えづらい手電王戦という「我を見失う事が多い」場所では尚更)だと思う。
一方のCOMはこのような「切り替え」には何の抵抗もないわけで、これだけでもいかに「電王戦は人間にとって不利な戦いか」(森下九段がしきりに「1手15分、盤駒あり」を提唱する理由)がわかるというもの。

ここから数手進んで、下図は世間の評判がすこぶる悪い?(週刊将棋でも疑問手と書かれている)△5八歩成。
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ツツカナも「ここで評価値が少し上がった」との事だが、
しかし当の森下九段の評価は
「とんでもない」「世間の評価が間違っている」。

▲5八同金△3八金に▲1七角と逃げられた場合は△1五銀と歩切れを解消しながら角をいじめに行き、以下▲5七金なら△2九金▲6九飛△1九金▲同飛に△1六香と串刺しにして後手指せる、というのが実戦での読み。
しかし森下九段には「△3八金に角は逃げないだろう」という確信があったようで(数手前の▲2八角や▲6九金も「絶対そう指してくる」確信があったそうである)、結果としては筋悪な(?)角金交換が通ってしまったわけだが。

…となるとこの将棋の敗着はやはり88手目の△8五桂という事になる。
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前回も書いたが、局後しきりに森下九段が悔やんだ一手。直前の▲4四金という手が「一見してありがたい手」に見えたために「油断」をしてしまったそして△8五桂に対しノータイムで▲8六銀と指されて「動揺」をしてしまった▲8六銀には△5九角と打つ手もあったが▲8五銀△同飛▲5八金で容易ではない、しかし本譜の△9七桂成と比べたらまだこちらを選ぶべきだった)、との事。
この「油断」や「動揺」をしてしまうのが人間の悲しい(COMと比べて不利な)ところであり、そしてそれがもたらす1手のミスによってそれまで積み上げてきた最善手が全てパーになってしまうというのが将棋というゲームの難しいところであるので、これらの要素を無視してCOMとの優劣を論じるのはかなり無理がある、それこそ将棋と囲碁のように『似ているようで全然非なるゲーム』を比較するぐらい噛み合わない話ではないか、と思う。

将棋、中でも特に電王戦は「結果しか見てもらえない勝負」と言われるが、今回の電王戦(中でも第4局・第5局)を結果のみで論じるのはあまりに勿体無いと思う。
将棋をよく知らない人ならともかく、ある程度以上将棋を指せる人が結果のみで「COMは人間を超えた」などと偉そうに論評するのは顔面に大きく「私はアホです」と書いてある(あるいはそう書かれたお札を貼ってある)ようなものに思えてしまう。

順位戦解説会後の記者会見でも述べられた「1手15分(当然COMも)、人間側は盤駒あり」ルールについての話も出た。
「そのルールなら『事前貸与なし』でも最強COM5台に全勝できる。                        」
…何となく「森下九段らしくない」豪語に思えたが(解説会前の取材でも同じ事を仰ったそうである)、森下九段は電王戦の数日前にツツカナに対してそのルールを試したそうである(さすがにツツカナに「秒読み15分」なんて設定はないので本番同様の5時間+1分で、だそうだが)。その感想は
「普段の自分が100mを10秒フラットで走る陸上選手だとしたら、盤駒ありは                        」
…そこまで違うんだ、と思った。

しかし、このルールを若手に話すと「そんなんで勝っても仕方ないですよ」と言われ、片上理事には「(対局時間が長すぎて)商売にならない」と露骨に嫌な顔をされたそうである。当の本人も
「だけどこの対局を見る人はいないでしょう。『自分も見ません』から(笑)」
とキッパリ(笑)。でも
「技術で劣っていると言われるのは非常に悔しい」
「どれだけプロが凄いのか見せてやりたい」
という言葉からは「プロ棋士の矜持」と言えるものを感じる事ができるし、そういうものがあるからこそプロの、と言うより人間同士の「心のこもった」戦いを見たい、という気にさせられる。

第4局のニコファーレ解説で藤井九段が
森下九段は対局の時に掌に何か書いているっぽい
と言っていたが(対局=先日の王位リーグの際にチラッと見えたらしい)、ちょうどその話も出て何と書いていたのかを(その経緯も含めて)伺えた。
…なるほど、そんな事が書いてあったんだ。

最後はつい先日の王位リーグ、対佐藤康光九段戦を解説。…って、順位戦」解説会なのに順位戦の解説はどこに?(笑)
…しかし、時間が切迫していた事もあって解説は130手くらいで打ち切られてしまった生まれて初めて日本将棋連盟に殺意(?)を覚えたかも知れないが(笑)、「その記者会見までが電王戦、つまり公務」という森下九段の言葉に従うよりない。もっとも実際に記者会見が始まったのは22時くらいからだったので、結果論で言えばいつものように「予定から1時間オーバー」でも全く問題なかったのだが…(笑)

森下九段の予定の関係とは言え、あらかじめ用意してあったテーマ全てを検証できなかった、という事で、藤井九段が招かれる予定だった8月17日に森下九段も登場する(島九段を含めた3人でのトークショーになる)予定との事。そしてそれとは別に12月に「2014年冬・順位戦解説会」を開催する予定、という発表も。
…休み取れるかな?(苦笑)

最後に「電王戦うちわ(島九段は「そんなものがあるなんて今初めて知った」と仰っていた)」にサインを頂く。文字通り「この世に1つだけ?のサイン入りうちわ」。当然ながら(?)誰かにプレゼント、なんて事はできません(笑)。
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…ところで「うちわ」は何て数えるのだろう。…1本2本? …1枚2枚? …ま、どうでもいいか(笑)。

ちなみに前日は「東京スカイツリー」に登っていた。
平日だけど天望デッキ(地上高350mの展望エリア)への待ち時間が約45分もしこれが週末だったら、ゴールデンウィークだったら、と考えるとちょっと、いやかなり怖い
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1枚目は天望デッキからの写真(7時の方角)。中央に見える特徴的な建物は左が江戸東京博物館、右が両国国技館(手前のビルは左が第一ホテル両国、右がNTTドコモ墨田ビル)、その奥に見えるのは「東京タワー」
東京スカイツリー両国国技館、東京タワーの3つは大体1本の直線上にある事がわかる(どうでもいい事だが…)。

2枚目は天望回廊(天望デッキから更に上に登った地上高450mの展望台エリア)から(4時の方角)。中央に見える建物はボートレース江戸川(のスタンド)
この日はレース開催日だったのでここにも行こうと思ったが、行くのが面倒だった(近くの駅から更にバスに乗る必要がある)のでやめた。

3枚目は天望デッキにあるガラス張りの床から撮影。道路の白線が歪んでいるのはガラスの屈折によるもの(…多分)。
…地上高350m(東京タワーより高い!)から真下を撮影したのだが、写真だと意外に「高さ」が伝わりにくいのは何故だろう。

もっと空気が澄んでいたら富士山が見える、との事らしいがこの日は天候こそ晴れだったが富士山は拝めず。

前回も予告した(?)ように「THE NEXT GENERATION パトレイバー」も見てきた。
原作(20世紀末)の10数年後、「長引く不況でレイバーの需要が一気に少なくなった時代」という実にリアルな、というより「生々しい」時代設定(笑)の話。
…映画の内容を語るのは控える。その代わりに見つけたものがこれ。
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「…何のネタだろう?」
と一瞬思ったが、これは本物の警察官採用PRポスター(つまりパトレイバーとのコラボ?企画)。警視庁以外に近隣の県警の募集もあった(ちゃんと左腕シールドの文字が「○○県警察」になっていた)。
…しかし受験資格のある(昭和59年生まれ以降、今年の誕生日で満30歳以下の人でパトレイバーが分かる人ってどれだけいるのだろう、と思った(笑)。


※1…その後17日の王位リーグ(及川拓馬五段戦)も勝ち今期は4連勝スタートとしている。

※2…その対局で昇段条件(四段昇段後100勝で五段に昇段、など)を満たした場合も(放送日ではなく)収録日=昇段日となる。
稲葉陽「七段」は第21期銀河戦で優勝し、「六段昇段後全棋士参加棋戦優勝」の条件を満たした事で
2013年8月16日付で七段に昇段したのだが、昇段理由が理由(同対局の放送は同年9月26日)なので連盟HPでは「かなりはぐらかした(それでもファンにはバレバレの)表記になっていた。
一方で「引退」に関しては通常は最終対局日が引退日となる(引退が決定した時点で対戦が決まっている=勝ち残っている棋戦全てで敗れた時点で引退となる)が、その対局がテレビ棋戦だった場合は「対局放送日が引退日」として記録に残る。
これは有吉道夫九段が引退(2009年度の順位戦C級2組で降級点3つ)が決まった後にNHK杯の予選を突破した事で急遽規定が変わった(それまでは一律で引退決定年度末=3月31日付けだった)。

※3…△8五歩が来たらそこで▲7七銀と受ければ良く、それまでは銀を中央に使う&振り飛車に移行する余地を残そう、という意味。
今でも先に▲7七銀と上がるのは加藤一二三九段など一部の「古豪」棋士くらいだが、▲6六歩~▲6七金右の2手を省いて▲3五歩と仕掛けることができるので、トップクラスの対局でもたまに指される事がある。
下図はその代表的(?)な対局、第28回将棋日本シリーズ決勝(2008年11月18日)森内俊之名人(当時)-△森下卓九段戦
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★1(後日加筆修正)…最初は戦法名を伏せて書いたのだが、週刊将棋4月30日号のインタビューで戦法名が書かれているので(伏せる意味がない、と判断して)ここでも戦法名を書くこととしました。