大相撲第64代横綱・曙太郎さんが死去、というニュース。自分が相撲を見るようになった頃には既に横綱だったような気もするが記憶が曖昧。幕内最高優勝11回、周知のように日本人以外で初の横綱となった偉大な力士である。初土俵からの連続勝ち越し(18場所連続)は歴代最長記録で今もなお破られていない。
同期に「若貴」がいた事からヒール扱いされる事も少なくなく、語呂が近い事から「ばけもの」なんて呼ぶ人もいた。もっとも若貴を初めとしたライバル力士を突き押しで吹っ飛ばす様は文字通りの「化け物」だったかも知れない。
引退後は協会に残るも突如協会を退職して(裏ではいろいろあったらしいが)総合格闘家に転身。ボブ・サップに1RKO負け、という惨敗が印象に残る人も少なくないが、その後も格闘家として活動を続け、プロレスの世界に入るとこちらでも「頂点」…全日本プロレスの最高タイトル「三冠ヘビー級王座」に到達している。…やっぱり化け物(褒め言葉)だ。
…総合格闘技に転身を表明した(その世界では大した活躍ができなかった)事をとやかく言う人は多かったが、自分は結果云々よりも「この人は一生『闘いたい』人なんだな」という印象を持った。
「生涯現役(希望)」と言えばそうなのかも知れないが、この表現だと「死ぬまで権力にしがみつこうとするアホ」とごっちゃになってしまいかねない【*1】ので、もう少し細かく表現するなら「闘争本能が溢れ出て止まらない人」と言ったところだろうか。そうでなかったら前述のボブ・サップ戦で心が折れていても不思議ではないので。貴乃花氏が追悼コメントで「百折不撓の人生観だったと思います」と述べているが、故人の生涯を過不足なく表現した言葉だと思う。
自分の知る限りで「闘争本能が溢れ出て止まらない人」は他に3人思い浮かぶ。
前2人は何度も「引退宣言を撤回している」。世間では「節操のない奴」とかほざく人が多いが、彼等も曙さんのように「消した蠟燭の炎が勝手に再点火してしまう」ような人だから我慢できなくなって引退を撤回してしまうのだと思う。加藤一二三にしても「制度によって強制的に引退させられた」が、その後の活動(ほとんどは「周りが引っ張り出している」のだろうが)を見ていると将棋に対する闘志や情熱が衰えている気配は全く感じられない。
大仁田厚とは電流爆破デスマッチで対戦もしている。電流爆破デスマッチに拒絶反応を示すプロレスラーも少なくないが曙さんは堂々と受け入れたといい、試合中に大仁田が繰り出した火炎放射も微動だにせず受け止めたというので大仁田は「さすが横綱だと感服した」と述べている(訃報を受けた直後の大仁田厚のコメントを要約しています)。
自分の目から見たら「闘争本能が溢れ出て止まらない人」は掛け値なしで凄いと思う。世の中は「加齢とともに闘争本能(≒情熱)が冷める人間」の方が大多数【*2】だし、自分なんぞは「一刻も早く闘わず(働かず)に済む方法を考える」くらいである(笑)。
享年54。「早過ぎる」と悼む人は多い。邪推であるが本人も「まだ闘いたい」と思っていたのではないか、と思う。
ここに謹んで哀悼の意を捧げます。