DJカートン.mmix

それって早い話「金儲けのための忖度」って事では。

将棋界のニュースをまとめて

こちらは本来書く予定だった記事。
短期間に将棋のニュースが集中しているのでいいネタになりそうと思っていた矢先にあの騒ぎが起きた。そっちもまとめて1つにしようかとも考えたが内容が特殊すぎるのであれだけ別個で上げる事にした…のはいいのだが、あちらにも書いたようになかなか納得のいくものが書けずに(4稿くらい没にした)時間だけが過ぎていき、結局こちらと同じタイミングに(一応記事は別にして)アップすることになった。

・アニメ版「3月のライオン
10月8日からNHKで放送開始。
今更言う事でもないかも知れないが、こういう作品は原作を読んでいる人と読んでいない人とでかなり印象(評価)が変わる。つまり読んでいる人だと原作という「フィルター」を通して見てしまうのでどうしても評価が「減点法」になってしまいがち一方で原作を読んでいない人(自分を含む)は比較的クリアな視点で「1つのアニメとして」見る事ができる。もっとも自分のように「将棋界について知識がある人」だと「別のフィルター」が働いてしまうのだが(笑)。例えば
「記録係が遅刻?している(普通は対局者より先に対局室にいるはず)
「夏にNHK杯の予選?(現実では2月に行われる)
とか
「今時振り穴に対して5筋位取りなんて指す棋士いるの?」
「その穴熊が『7二金・6二金形』というのはどういう事?」
とか(※1)…

そういうのを抜きにして自分が初回・2回目を見た感想は
「『ひだまりスケッチ』みたい」
…もっとも監督が同じ(新房昭之監督)だから(特に細かい演出とかのせいで)そう見えても不思議ではないのだけど。

・電王トーナメント、Ponanzaが連覇
…どうでもいい(笑)。ましてや戦前から「どうせPonanzaが優勝するんでしょ」みたいな空気が内外にあったっぽいので尚更興味がない。そう言えば今年の(第1期)電王戦の時は表記が「PONANZA(全て大文字)」だったのがいつの間にか元に戻っているがやはりどうでもいい。

そんな中準決勝で真やねうら王が一本入れた事が妙に騒がれている。しかもその将棋は自分が知る限りでは「公に棋譜が公開されている対局では史上初めてとなる『入玉宣言』による決着がついた将棋」である(「自分が知る限り」なのでこれ以前にもそういう対局はあると思われるが今は忘れて下さい…)。
下図はその将棋の終局数手前の局面(.csaファイルを開く方法が分からなかったので携帯中継の棋譜を手入力…)。後手が人間(プロ棋士)だったらとっくに投了している将棋でしょうが(※2)それはスルーします(笑)。
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入玉宣言』ルールについておさらいすると、宣言する側の手番の時に
1.自玉が敵陣3段目以内に入っている
2.「敵陣3段目以内にいる駒」と「持駒」の点数(大駒5点小駒1点で計算)の合計が24点以上ある
3.敵陣3段目以内に自分の駒が玉を除いて10枚以上ある
4.自玉に王手がかかっていない
の全ての条件を満たしたときに「宣言」でき、双方の点数によって「持将棋」または「宣言者の勝ち」となる(1つでも条件を満たしていない状態で宣言すると「宣言者の負け」となる)。
将棋電王トーナメント持将棋は俗に言う「27点ルール」なので2.の条件が「先手なら28点、後手なら27点以上」となり、条件を満たして宣言すれば「勝ち」である(以前も書いたが将棋の駒は合計で54点分しかないのでこのルールでは持将棋=引き分けがあり得ない)。
この局面では上記の全ての条件を満たしている(4段目以下にいる金3枚+成桂は2.の点数に含まないがそれでも29点ある)ので、この局面が先手番だったら「宣言」して勝ちにする事ができる(※3)。ここでPonanzaが放った次の一手「△2三龍」! 歩を取った事でその瞬間敵陣にいる先手の駒が9枚になる(3.の条件を満たさない)、つまり「宣言できない状態」になる(他の理由は考えられない)。
しかし真やねうら王は冷静に(?)▲8三銀と「敵陣10枚目」の駒を打ち込み、以下△7五玉と指されたところで「宣言」して勝ちとなった(結果として△2三龍はCOMによくある「悪あがき王手」とほとんど同じ──つまり「美学のない」──手になった)。
携帯中継ではそのシステム上「後手の反則負け」で処理されているが、実際のところはどうなっているのかよくわからない(前述のように.csaファイルが読めないため)。

その一方で今回のトーナメントでは「潔い投了」をしたソフトもある。決勝トーナメント1回戦の▲大将軍-△習甦戦(携帯中継から発見)。下図がその投了図。大抵のソフトは「悪あがき王手」を連発した挙句詰まされるまで指す中、習甦はその前で潔く投げている(開発者が「タオルを投げ入れた」というわけではなさそうである)。後手玉は受けなし、先手玉は詰まない。これを「人間同士の対局の投了図」と言っても普通に通じそうである。
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・電王戦合議制マッチ
↑の記事を書くためにサイトを見ていたら発見した話。

「…またしょーもない事を考えるなぁ」

と思った。こういう対局があってもいいかも、と言ったのは森下九段だが、それを無理矢理実現させようとするドワンゴの考える事がよくわからん、と思った。2年前の「森下ルール」によるリベンジマッチも「あくまで仮定の話」として森下九段が言ったのを
「だったら実際にやってみてください」
と真に受けて(?)無理矢理実現させたイベントである。言わばそれの第2弾とも言えるイベントである。しかも今回は元々「COMと戦うための提案ではないもの」を人間vsCOMに援用しようというのである。 …もしかしたらこれのせいで12月の順位戦解説会がなくなったのか、と考えると腹立たしさすら覚えそうである(笑)。

現時点では日時(今年の大晦日)とCOM軍のソフト、棋士軍の1人が森下九段(残り2人は「電王戦に出場した棋士から選ぶ」)、という事しか発表されていない。
世間ではよく「プロ棋士間で合議したら1人で考えるより弱くなる」なんて言われているが、実際にやったわけではないのでやはり「やってみないとわからない」という点はあると思う。
例えば3人で合議したら「うっかりミス」というのはほぼなくなると思う。また控室の検討が得てして「過激な手順から検討する」のと同じ理屈で人間側が「通常だったら踏み込まないような過激な手順」に踏み込む、それこそPVで森下九段が言う「神の一手に近いような手」が見られるかも知れない。
…こう考えるとなんだか興味が湧いてきたような気もするが(ま、最大の要因は「森下九段が出場するから」なんだけど…)、その日はボートレース平和島で賞金女王決定戦(クイーンズクライマックス)を観戦することが既に決まっているので2年前と同様にレース場のスタンドで携帯中継で観戦、という事になりそうである(笑)。

竜王戦七番勝負、対局前に金属探知機で持ち物検査
新しい対局規定の施行(12月14日より)に先駆けて竜王戦七番勝負で実施された。しかも「任意提出」ではなく金属探知機による「強制検査」である(※4)。正確には検査の後対局中に使用できない電子機器を主催者側で預かる、という形なのだろう。中継ブログによると検査は前夜祭が始まる前に行われたようである(いつそれを預けいつ返ってくるのか、については書かれていなかった)。
…金属探知機なんていうと何だか物々しい感じもするが、「飛行機に乗るようなもの」と考えればそんなに大仰に考える事もないように思う。ましてや今は公営ギャンブル各種や大相撲などのように)「競技区画内に携帯電話を持ち込めない競技」がいくつもあるし。

・NHK杯、佐藤康光九段対増田康弘四段
新鋭とA級棋士の対局という事で注目の対局だが(※5)、正直なところ興味は対局そのものよりも森下卓九段の解説だったり(笑)。
その前にひとつ気になったのは画面表示が「増田」であった事。現在将棋界には「増田裕司六段」(第57回のNHK杯でベスト8に進出している)と増田姓の棋士が複数がいるので表示としては「増田(康)」(と「増田(裕)」)でないといけないと思う。まぁこれは次回以降直せばいい話なのでこれ以上は突っ込まない。

増田四段の先手で始まった対局は序盤から趣向が出る。初手から▲2六歩△3四歩に「▲9六歩」
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森下九段の解説(と感想戦での本人の弁)によると横歩取りのような一発系の戦形を避けて力勝負に持ち込む手」で、他に指す人がほとんどいない事から「増田流」と言われるようである。
▲9六歩以下は△4二銀▲7六歩△4四歩…とまるで相矢倉定跡の(先後を入れ換えた)ような進行。
実際盤面をひっくり返すと端歩以外は「矢倉24手組」そのまんまである。
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その一方で後手としてはその端歩を目標にした棒銀を視野に入れた駒組を目指せる事(解説にも出てきた「矢倉囲いに端歩を突くな」という格言の意味)、そのため先手としては無造作に矢倉(持久戦模様)には組みにくい事、それ故先手は早い段階で▲3五歩と動いた(急戦模様に出た)などが分かりやすく説明されている。これが持ち時間の多い対局、あるいは過去の対局(の解説)だったら大盤を戻して詳しく解説したり対局者のエピソード、時には思いっきり脱線した裏話などを面白おかしく話していただけるのだがNHK杯は早指しの対局なので残念ながらそういうわけにはいかない(笑)。

優劣の分かれ目となったっぽいのが下図の局面。
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△5三銀はこの瞬間は自ら角が引く道を閉ざすリスクの高い手であるが、次の△4四銀が「抜群の味の手」となるので▲5八金などというのんびりした手は指せない
森下九段は「▲3六銀(これに△4四銀は▲3五歩で銀損)か▲3五歩(△同銀▲4五歩)と動かないといけない」と言う。本譜は▲3六銀を選んだが結果としてあまり良くなかったようで、以下△4六歩▲同角と△4四銀を甘受(我慢)したが▲6五銀△5五角▲同角△同歩▲4八飛△4六歩▲5八金△8八歩で後手が良くなった模様。
感想戦でも増田四段はこの局面で「やはり▲3五歩でしたか」。▲3五歩以下△同銀▲4五歩△4六歩▲4八飛…はむしろ先手の方が指せるようである。

△8八歩以下も綾のありそうな局面はあったが最後は緩みなく寄せた佐藤九段が貫録勝ち。
…誰ですか、80手目の局面(下図)をソフトにかけて「詰みがあるのに逃してるじゃん」と得意になっているのは?(※6)
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加藤一二三九段と藤井聡太新四段の対談
10月17日の讀賣新聞朝刊に掲載。史上最年長棋士(このまま行けばこれまでの記録「77歳0か月」の更新は確定している)にしてこれまでの史上最年少棋士でもある加藤九段と新たに史上最年少棋士となった藤井四段の対談。…これを読むためだけにコンビニで新聞を買った(笑)。1面の半分くらいを使って特集が組まれているが、実際は書かれている以上の量の談話があったのではないかと思う。
中でも藤井四段が加藤九段の「伝説」に興味がある、という話は面白い何故対局時の食事にうな重を長年食べているのか、とか何故対局場の「滝を止めさせた」のか、とか。

当然ながら両者は現役の棋士なので今後公式戦で対局する可能性がある。…と言っても厳しい事を言うなら「現時点では実現確率はかなり低い」
まず加藤九段はC級2組で降級点2を持っていて今期も現在1勝3敗今期も降級点がつくと3つ目で降級、年齢による規定により引退が決まる無論降級を免れれば最低でも1年は棋士寿命が延びるわけだが、今期は順位が下なので3勝(7敗)ではまず助からない。つまり最低でも残る順位戦6局のうち3勝は絶対条件。…端から無理だとは言わないが(そんな事を言うのは無礼極まりない)、さすがに楽観はできない。
もし落ちる事になってしまってもそれ以前(今年度中)に予選の対戦カードが決まる棋戦(棋王戦・王将戦・NHK杯)で対局する可能性はあるが、これらの予選(王将戦は「一次予選」)は基本的に東西に分かれてカードが組まれるのでこちらで対局が実現する可能性はほとんどないと言っていい。

もし公式戦での対局が実現しなくても何らかの形(イベントの席上対局とか)で対局が実現してほしいと思う。でないと非常に勿体ない(?)ように思うので。


※1…7二金・6二金形の穴熊(上から攻めてくる)相振り飛車だと時折見かけるが(横から攻めてくる)対抗形では「棋理にそぐわない」と言える(居飛穴だと「▲9八香と上がる前に▲7八金と上がる」「松尾流穴熊への進展を見る」事があるので不自然ではない)。
将棋棋譜作成をした「田中誠」という人(エンディングクレジットに名前がある)の棋力が気になるところ…

※2…先手玉が入玉した171手目の時点で点数は「31:23」。…24点ルールでも負けてるがな(笑)。

※3…規則書には「入玉宣言はソフトが行い、画面上に明示した上で「%KACHI」のコマンドを入力する」とあるので、投了と違って開発者が介入して宣言、というのはできないようである。
規則書を見る限り入玉宣言機能は「必須機能」でも「推奨機能」でもないので参加ソフトの中にはこの機能を搭載していないものもあった(そういうソフトは勝利条件を満たしていても相手を詰ますか「256手で引き分け」ルールに甘んじるしかない)のかも知れない。

※4…「今回の三浦九段の件を受けて今回の手荷物検査実施の運びとなった」
と思っている人が多いみたいだが(そういう風に報道したところがあったらしい)、今回の金属探知機による検査は新しい対局規定の施行を発表した時──つまり「三浦九段の件」が起きる前──に実施することが決定している
その記事(もう見れない)では「両対局者も実施には同意している」となっていたが、両対局者というのは渡辺竜王と「三浦九段」のはず。という事は…

※5…こういう対局が早い段階で見られるのは王位戦とNHK杯くらいである。

※6…本譜は図の局面から△4七歩成▲7八玉△8八銀で投了となったが、△5八角成▲同金△7八銀▲5九玉△6八角▲同玉△5六桂▲5九玉に△4八金から清算して△4七金以下の即詰みがあった。
途中△5八角成に▲同玉は△3六角▲5九玉△4八銀打以下、▲同飛は△7九金▲5九玉△4八角以下、△7八銀に▲同玉は△7九金(意外に盲点)▲6八玉△7七角で詰み。
森下九段も「△5八角成で詰んでそう」と言うので読んでみたが、▲同金に△7八銀が見えず(仕方なく「柿木先生」にすがる…)。