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それって早い話「金儲けのための忖度」って事では。

年末年始の将棋界(?)を振り返って

電王戦リベンジマッチ以外にも将棋界(?)にはいろいろな動きがあった。

昨年末の話になるが、NHKの「日本の話芸」で以前紹介した「二人ぐせ」が演じられていた(この事は年末に書こうと思っていたのだが忘れていた…
登場した詰将棋は以前書いたものと同一だったが、話の「サゲ」が以前書いたものと違っていたもっとも同じ噺でも演者によって「サゲ」が違う事は珍しくない(例えば「寝床」は自分が聞いただけでも4~5通りの「サゲ」があった)のでいちいち気にしても仕方ないのだけど、どうせなら登場する詰将棋を「ミクロコスモス」とかにしてしまう、なんてのもありかも知れない。
…どうやって図面を説明するかって? そこはプロジェクターかなんかを使って演者の横か後ろに映せばいいんです。かつて六代・桂文枝師匠(当時は桂三枝)が創作落語でそういう演出をやっていた記憶があります。

内藤國雄九段が今年3月末を目処に現役を引退する意向であるという(正式な記者会見は3月に行う予定)。「膝と腰が悪く、長時間の対局に耐えられなくなった」との事。
内藤九段と言えば通算1100勝以上(史上6人目)、タイトル4期(王位2、棋聖2)、A級在位17期を誇る大棋士であり、また詰将棋作家としても著名な存在でもある。
史上初めて新手・妙手を指した人や定跡の進歩に貢献した人に贈られる升田幸三賞」その年に発表された優れた詰将棋の作者に贈られる看寿賞」の両方を受賞(※1)した人物である(後に谷川浩司九段が両方の受賞を達成している)。
弟子には神吉宏充七段と三枚堂達也四段がおり(※2)、孫弟子に(神吉七段門下の)吉田正和五段。
自身の現役中に孫弟子がプロ(四段)になる、という事自体が相当稀有な例(それだけ長い間現役でいたことの証左)であるが、その吉田五段とは公式戦で対局(2012年4月17日、竜王戦5組昇級者決定戦)があり、千日手の末に敗れて将棋界では非常に珍しい「大師匠(師匠の師匠)への恩返し」(※3)が実現した。
…ただ自分の中で内藤國雄九段と言うと内藤九段が監修したファミコンソフト「内藤九段将棋秘伝」が真っ先に思い浮かぶのだが(笑)。

このまま現役を続けていたら最短でも引退(C2陥落)が77歳4ヶ月、最年長現役記録丸田祐三九段の77歳0ヶ月)の更新が確実だったので何だか「勿体無い」ような気もするが、こればかりは本人の意思なので外野がどうこう言える筋の話ではない。あるいは(あと7敗で)1000敗の大台に乗るのを避けた…というのはさすがに考えられないですね。失礼しました。

「リアル車将棋」のルールが発表されている。
まず持ち時間は4時間チェスクロック使用)でなんと(?)「切れ負け」そして「車の移動時間も消費時間に含める」、つまり「着手(局面を車で再現)完了まで時計は止まらない」
例えば歩でも何でも「1マス前進」だったら移動時間はせいぜい数秒だが、角交換とかになると着手(車の移動)だけで1分以上かかる可能性もある(詳しくは後述)。

以前香龍会で議論(?)の対象になった「車を動かすドライバー」は両対局者に5名ずつと決まった。それに監督とサポート棋士がつき、サポート棋士の助言を受けて監督がドライバーに指示を出し車を移動させる。
2月なのでドーム内は結構寒い事が想像されるが、ドライバーは寒空(?)の中盤の脇で待機させられるのだろうか
他にもドライバーは着手後に車の中にいても良い(ただし相手の手番の時はエンジンを停止し運転席以外に座る…結局寒い)、必要があれば相手の駒(車)を動かすこともできる(例えば前後を相手の駒に挟まれている駒を動かす時とか)、などが明記されている。当然ながら駒を取る場合は指し手側のドライバーが取る駒を自陣の駒台まで運転する事になるのだろう。
…個人的には
「監督とサポート棋士は同一人物のほうが効率がいいのでは?」
と思うが、TOYOTA内に適任者(ある程度以上の棋力と5名のドライバーを自在に動かせる権力?の両方を持つ人)が見つからなかったのかも知れない。あるいは対局者(羽生名人と豊島七段)が直接監督に助言するとか。…でもこちらは「そんな余裕はなさそう」だし。

ここで気になったのが
「駒取り要因のドライバーを同乗させてもいいのか?」
「駒取り要因のドライバーを相手の車の中で待機させてもいいのか?」
例えば初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△3二金横歩取りの出だしになったとする。こうなるとここから「▲2四歩△同歩▲同飛△8六歩▲同歩△同飛▲3四飛」まで進むのは「ほぼ間違いない」
つまり11手目に2三の歩を取る事がほぼ確定しているので9手目▲2四歩を動かしたドライバーを後手の2三歩の中で待機させ、その2手後に▲2四同飛が確定(棋士が符号を宣告)した瞬間にその後手の歩を駒台に移動させる、という具合。更に言うと15手目に3四の歩を取ることもほぼ確定している(羽生名人も豊島七段もまさか「横歩取らず」の▲2六飛とかは指さないと思う)ので、11手目▲2四同飛の時点で先手の飛車に「3四の歩を駒台まで移動するドライバー」を同乗させておき、15手目の▲3四飛が確定した瞬間にそのドライバーがサッと3四歩に乗り込み駒台へ移動→飛車を3四へ移動、という感じ。
「切れ負け」である以上こういった「先読み」は許されてもいいと思う…が、ニコニコの運営にこのような高度なテクニック(?)を理解できる人がいる可能性は低そうだ(笑)。

将棋盤の大きさは縦54m×横33.3m(1マスあたりの大きさは6m×3.7m)。図(車の大きさは便宜上4.6m×1.7mとした)にするとこんな感じ。

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想像以上に小さい(狭い)。車間距離は1.4m、隣の車との間隔は2.0m
斜めの隙間は2.4m強あるので「斜め方向への移動」はそれほど苦にならないと思うが、予想通り横方向への移動は相当大変だと思う。今も書いたように車間距離はわずか1.4m(大きい車だったらもっと狭い)なので、切り返しで車を横に向けるだけでも相当時間がかかるそれよりは駒を一度バックして(後ろに他の駒がいる場合は一時的にどけて)縦列駐車の要領で動かすほうが圧倒的に早いと思う。
…それにしても、通常の将棋の駒なら指一本で滑らせれば済む動きなのに、なまじ車になったばかりに途轍もなく面倒な動作を要求されてしまう(笑)。
当日は「ドライバーと監督で車を持ち上げて動かした方が早いんじゃないか?」なんてコメントが飛び交う可能性がありそうだが、相手は総重量1tを優に超える乗用車(まして真横に動ける駒は玉・飛・金と「大きい駒」)なのでとても6人の人力では持ち上がるとは思えないそもそも(ルールに明記されてはいないが)「車を持ち上げて移動してはいけない」だろうし(笑)。

そこで考える。そういう事情なので「できるだけ駒を真横に動かす回数の少ない戦法」を選びたくなるのが人情ではなかろうか。例えば対抗形、特に穴熊居飛車振り飛車も玉が横に数回(しかも金や銀、歩など「自分の駒の間」を)動くので最悪かも知れない。相矢倉や角換わりはまだマシだろうが、こちらはこちらで「斜めの移動」が多いので別の意味で大変そう。
だとすると有力なのは横歩取りか相掛かり? これはこれで飛車が盤面を左右に飛び交う場合もあるが、飛車が飛び交うのは盤の中央「周りの駒が少ないエリア」なので他の戦形よりは移動(切り返し)に苦労が少なそうだ。もっともどんな戦形でも終盤で両軍の車が入り乱れてきたらそれどころではないのだが…
自分は現時点でライブで見られるかわからない(そもそも一般会員は「追い出される」可能性が高い)が、もしかしたらこの対局の最大の見所は対局(棋譜)の内容ではなく、「両陣営の車の移動の際のドタバタ」になるかも知れない(笑)。

順位戦も佳境に。挑戦権争いが混沌としているA級も気になるが、やっぱり自分はB2が、と言うより森下九段の成績が一番気になる(笑)。
年末(高橋道雄九段戦は攻め合い、年始中村修九段戦は受け切りで連勝したがまだ3勝(5敗)、星のめぐり合わせによっては残り2戦を1勝1敗(4勝6敗)でも降級点となってしまうのでまだ安心できない。
また今期は島朗九段の成績も気になっている。今期は降級点持ちの状況でいきなり出だし3連敗、と非常に危険なスタートだったが(そんな状況下でも「この期に及んで            」というのが島九段らしいとも思った)、そこから盛り返して4勝4敗の五分(勝った相手には森下九段もいる)、あと1勝で指し分け=降級点回避が確定する…はず(※4)。でもどうせなら残り2つ勝って一発で降級点を消したいのが人情というやつだろう(降級点消去の条件は勝ち越しか2期連続5勝5敗)。

電王戦リベンジマッチ(の棋譜)についても素人目線から少々触れたい。
今回も本番(4月の対局)同様森下九段が「7割から8割はそうなる」と予想していた相矢倉▲8八玉の入城を保留して1筋に手をかける「ツツカナ流?」も本番と同じ進行。
森下九段が34手目に△8五歩に変えて△9四歩(に対し▲1八飛)とした事で本番と別の将棋になった。やはり最初のキーポイントは昼食休憩前に指された▲4六歩であろう。
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自分は住之江のスタンドで(携帯中継で)この局面を見た時の第一感は
「何だこりゃ?」
である。▲4八銀の形でこの歩を突く(次に▲4七銀~▲3七桂を目指す)のならわかる後手が△4五歩と突いていて、それに対する反発として▲4六歩と突くのもよくある形である。しかしこの局面はそのどちらでもない。
ここだけ見ると先手のメリットがない、それどころか自ら角や銀の進路を消しているのでそれこそこの手は「将棋に無い手」とさえ思えてしまう
その十数手後に次の局面まで進むと「先手(の陣形)もなかなかという気がします(解説の佐藤康光九段のコメント)」が、単純計算すると先手は4手の手損(飛車と銀の動きで2手ずつ)、1筋の突き越しも含めるなら6手も手損である。
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これが角交換系統の将棋(自陣に角打ちの隙を作らない為)だったらよくある折衝だが、双方の角が盤上にいる相矢倉で4(6)手も手損して後手に好形を許すのは人間的にはやはり「将棋に無い手」ただ最近はCOMの出現によってそれまでは疑問と言われていた形が実は「そうでもない」と見直されることが多くなったので、もしかしたらこの形もそれに該当する…ようには思えないんだよなぁ、さすがにこの形(手損)は。

その後もツツカナの指し手には▲6九飛や▲5八銀(本譜のように△6六銀▲同銀△5八飛成とあっさりと龍を作られる)といった「とても人間には指せない手」が出てくる。これらは形勢を評価関数という「数字の大小」で評価するCOMだからこその手とも言える。判断基準が数字のみだから「前例」「先入観」「手の流れ」「形の良さ(美しさ)」「恐怖心」などといった「人間的な要素」と無縁な手を思いつく。そして他の手と比較した結果、その手の評価値が一番高かったからその手を指す、その繰り返し。
…という書き方をすると何だか将棋が事務仕事っぽく感じてしまう(笑)。
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しかし人間でもそうだが、当人(COMを「当」と呼んでいいのかはともかく)が最善と思って指したつもりでも、その判断が間違っていないという保証はどこにもない。
現に途中までは先手良しというツツカナの評価値は下図の局面あたりで後手に振れ始めたもしCOMの評価関数が完璧だったら一度プラスになった評価値がひっくり返されるなんて事態は起きないはずだから。
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皆さんも御存知のようにこの将棋は年が明けた1月1日の5時25分頃に指し掛けとなる。他サイトの記事を読むと「ニコニコ側の運営の都合」、詳しくは「交代人員の不足」が最大の要因らしい。
…森下九段は交代要員(?)なしで19時間一人で戦っているのだからそのような泣き言を言うな!
と思うが(笑)、あのまま続けられていても森下九段の身に何が起こるかわからないので、「まぁ仕方ないかな」という気持ちがないでもない。
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「今回のルールは『待ったありの将棋』みたいなものでプロとしての恥ずかしさもあったんですが、通常レベルの疑問手や悪手はなかったと思うので責は果たしたかなと思っています」(局後の森下九段のインタビューの要約)
「責は果たした」、つまり「純技術的にはまだプロの方が上」である事が証明できた事になるわけで、この結果は多くの人に、近いところでは電王戦FINALに出場する5人のプロ棋士にとっては勇気付けられた結果だと思う。
また森下九段が指し掛けの局面を見て
「自分が先手だったら投了していると思います」
と仰ったように(※5)、COMには「粘っている(逆転の機を待っている)」と「指しているだけ(≒悪あがき)」の違いまだまだわかっていない、要は「美学」という見地では人間に遠く及んでいない事もわかる。もっともCOMにそういう(ある意味無駄な)要素を取り込もうと考える開発者はいないと思うけど…(笑)


※1…升田幸三賞は1994年度横歩取り空中戦法」看寿賞は1998年度「攻方実戦初形」で特別賞を受賞。以下はその「攻方実戦初形」。タイトルの通り7~9段目に攻め方の駒20枚が「実戦初形」で並んでいる(勿論「攻め方の玉」にも意味がある)。内藤九段はこれと反対の「玉方実戦初形」も発表している。
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※2…ただ、内藤九段は自身で弟子を取るより同門(藤内金吾八段門下)の弟弟子に委ねる事が多かった(例えば「谷川浩司少年」を同門の若松政和七段に委ねた)という。

※3…便宜上「恩返し」と書いたが、恩返しの正しい意味はそうではない…と自分は強調したい(笑)。

※4…A級・B級1組は「指し分け以上なら最終成績が下位2名になっても降級しない」(極端な話B1で「全員6勝6敗」だったら1人もB2に落ちない)ので、B2以下にも同様の規則が適用されると思われる(のだがハッキリしなかった)。

※5…指し掛けの局面で先手の点数は20点しかなく、自分が見ても持将棋に必要な「あと4点」を取れそうな見込みがない(このまま続けても「指しているだけ」なのでプロだったら潔く投了している局面だと思う)。
もっとも今だったらプロの対局規定でも入玉宣言法」で勝利宣言することが可能だから、無理に寄せなくても入玉宣言で後手森下九段の勝ち」という結果になる可能性が極めて高い。

ちなみに入玉宣言の方法は以下の条件を全て満たしている時に自分の手番で「宣言」、
1.自玉が敵陣(3段目以内)に入玉している
2.敵陣に玉を除いて自分の駒が10枚以上いる(大駒小駒の種類は問わない)
3.自玉に王手がかかっていない
4.敵陣にいる駒と持駒の点数の合計持将棋以上の条件を満たしている(「宣言」に関しては敵陣に到達していない駒の点数はカウントしないので注意が必要)
4.の点数が31点以上なら宣言側の勝ち、24~30点の場合は持将棋となる。宣言時に上記条件を一つでも満たしていない場合は宣言した側の負けとなる。