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それって早い話「金儲けのための忖度」って事では。

順位戦悲喜こもごも

以前このブログで「森下九段がB1昇級(復帰)するための第一条件」として、B2第10戦(2月13日)で

・森下九段が先崎八段に勝つ
・村山六段が南九段に敗れる
・豊川七段、戸辺六段の最低でもどちらかが敗れる

の全ての条件を満たす必要がある、と書いた。これらの条件に該当する対局の経過を時系列順に並べると、
・23時14分、豊川七段投了…条件3を満たす
・24時27分、南九段投了…条件2を満たせず
…この時点で森下九段の昇級は消えた。ちなみにその後は
・25時20分、森下九段勝利…条件1を満たす
・26時25分、戸辺六段投了

この結果最終戦では
・「村山六段が負け(森下九段が勝ち)」&「先崎八段が勝ち」で先崎八段が昇級
・それ以外のパターンは村山六段が昇級
となり、森下九段が残る昇級枠のキーパーソンとなってしまった。

「理論上」の可能性が消えたのは上記のように24時過ぎだが、自分の中では14時過ぎに
「…終わった(森下九段が昇級する可能性は消えた)
と思っていた。その理由はその時間の▲村山六段-△南九段戦の局面(下図)。
イメージ 1

見てのとおり先手玉が穴熊に入ったところ(この1手前の△8二玉が「14時頃の局面」)。
こういう言い方をすると南九段に対して失礼かも知れないが、振り飛車側も穴熊だと言うのならともかく木村美濃vs穴熊ではとても振り飛車が勝てるような気がしないのである。
しかもこの対局の3日前に森下九段が穴熊で森九段の振り飛車に快勝する振り飛車の囲いは銀冠、下図はその投了図)という都合の悪い前例(笑)があったので余計勝てる気がしなかった。
イメージ 2

藤井猛九段の言葉に
居飛車穴熊の▲9八香の価値は10円、▲9九玉は500円しかないが、▲8八銀になると10,000円の価値がある
なんてのがあるそうだが(深浦康市九段著「最前線物語」より)、こういう将棋を(振り飛車側から)見ていると10,000円どころでは済まないような気もする。事実森下九段の将棋も村山六段の将棋も穴熊の玉には一度も王手がかからないまま終局している

今期の順位戦は昇級(名人挑戦)や降級の大半が最終戦の前に決まってしまう(B1で最終戦の前に昇級・降級の4人が全て決まるなんてかなり珍しいと思う)というかなり片寄った星になってしまったが、これも順位戦のシステムだから仕方ないと思う。もっともファンや関係者(当事者を除く)もそれを十分承知の上で昇級・降級争いを肴にして一献やっているのだろうけど(笑)。

順位戦の所属クラスは棋士生命や収入(の大部分)を左右する棋士にとって非常に大事なものだが、それ以外にもいろいろな棋戦(の予選など)に影響する

王座戦…B2以上は一次予選(通過は6人)が免除される
棋王…B1以上は予選(通過は8人)が免除される
王将戦…A級は一次予選(通過は18-免除者数、例年は8~10人)が免除される
棋聖戦…B2以上は一次予選(通過は8人)が免除される(※1)
銀河戦順位戦上位者は予選免除(※2)、ブロック戦は順位戦のクラスが下の方から登場する
NHK杯…B1以上は予選(通過は18人)が免除される
他にもタイトル保持者などに対する予選免除があるが、書くと面倒なので割愛します。
なお、竜王戦王位戦順位戦のクラスによる免除はなし(※3)

いつ・誰が言ったのか忘れてしまったが、順位戦の次に大事なのはNHK杯」と言った棋士がいたそうである。その棋士は何年もNHK杯の本戦から遠ざかっていた(予選通過できなかった)ので
「テレビ(NHK杯)に出て来ないからもう引退されたのかと思った」
なんて事をファンに言われたそうである。 …なるほど、そういう見方(?)もあるんだな、と思った。
ちなみに森下九段が最後にNHK杯本戦に登場したのは2009年度(第59回)、この時はB1にいたので予選免除だったが、(第59回の組み合わせ抽選の)直後にB2に陥落したので翌年度からは予選回りとなってしまった。その第60回以降は予選突破がないので、テレビで「せり上がり(※4)」が見れないのは非常に残念である。今年(第64回)の予選はどうなるだろう…

将棋界に詳しくない人だと「NHK杯の予選っていつやってるの?」と思われるかも知れないが(自分は聞かれた事がある)、予選は毎年2月下旬に東西の将棋会館で行われている
予選は全部で18ブロック、前年末の時点でのB2以下の棋士(ただし「前年ベスト4以上」などの予選免除者を除く)各ブロック7~8人に振り分けられて行われる持ち時間は「20分→切れたら1手30秒未満(本戦と違う)」の早指し
1つのブロックは1日で決着させるので、多い人は1日3局(※5)指すことになるちなみに現行の棋戦で1日3局指すのはNHK杯の予選だけである(※6)。

最近だと様々なメディアで棋士の露出が増えてきているが、やはり棋士は対局で見せて(魅せて)ナンボだと思うので、全国で放送されるNHK杯に出れるか否か別の見方をするとNHK杯で予選免除されるB1とされないB2とでは天地ほどの差があるように(自分には)見えてしまう。
なので自分は森下九段のB1復帰の可能性について熱く語ってきたわけであります(笑)。


※1…C1以下でも「棋聖在位経験者」「棋聖戦五番勝負出場経験者」は一次予選免除(現役棋士では前者は内藤國雄九段や桐山清澄九段、後者は加藤一二三九段や淡路仁茂九段などが該当)。

※2…「予選免除者」+「予選通過者」=90になるようにA級上位から順に予選免除になる(予選免除となる「タイトル保持者」と「前期決勝トーナメント進出者」、「予選を戦う棋士の数」は毎年変化するので予選免除数は毎年異なる)。
これに女流枠2+アマチュア枠4を加えた96名がA~Hのブロック戦に出場。

※3…厳密に言うと王位戦の予選1回戦(俗に言う「ぶら下がり」)順位戦のクラス下位の棋士から当てられるようである(他の棋士は2回戦からスタートするので「免除」と言えるレベルではない)。

※4…この所作の正式名称(があるのか)がわからないので勝手に命名(笑)。
着手する時にその駒を着手したいマスの自陣の一段目に打ち付けた後「スーッ」と着手したいマスまでスライドさせる(例として2九の桂を「▲3七桂」と指す時に桂馬を手に取り「3九」の地点にピシッと打ちつけ、そのまま3七までスライドさせるかつては中原誠十六世名人などもNHK杯で同様の所作を見せていた)。
棋譜中継で「この所作が出た事を書かれる」事があるくらい森下九段の代表的な(?)所作である(と言うより今は他にこの所作をする棋士がほとんどいない…)。
自分もよくやるのだが(笑)、プラスチック駒だといまいち「締まらない」し(多分駒音のせい?)、布盤では「せり上がり」自体が出来ない(笑)。

※5…基本的に各ブロックは東西で別れるのだが(12:6である事が多い)、棋士数の関係でどうしても東西混合になってしまうブロックがある場合は日を分けて(東西どちらかの勝ち残り棋士が遠征して)指される事もある。
ちなみに7人のブロックで「1戦免除」となるのはB2の上位棋士

※6…棋聖戦の一次予選や朝日杯でも1日2局。かつては1日で最大4局指す棋戦(の予選)もあったらしい先崎学八段著「今宵、あの頃のバーで」より)。