DJカートン.mmix

それって早い話「金儲けのための忖度」って事では。

対局規定の改正、そしてそれが将棋界に及ぼす影響。

以前より将棋連盟HPなどで「10月1日より改正対局規定が1年間暫定施行」とアナウンスされ、週刊将棋8月21日号にはその詳細が特集記事として組まれている。

「暫定」なのでまずは実際に運用してみて不具合があれば修正していく、というやり方は偉そうに言わせてもらえば賞賛に値すると思う。一見どれだけ理に適っていそうな法案・規則でも実際にやってみないと分からない部分というのは多く、それを己の頭の中の理論だけで完結させようとするとロクでもない結果になることが多いように思うので(※1)。

新しい対局規定が1年後にどうなっているかは文字通り「やってみないとわからない」が、この対局規定が将棋界(プロアマ合わせて)にどのような影響を及ぼすか、を勝手に考えてみた。あくまで個人の勝手な推測なので、あまり目くじらを立てずにお読みいただけたら幸いである。

1・入玉宣言法の導入
マチュアの大会では以前より導入されているものだがこの度プロでも採用される事になった。具体的には

・自玉が敵陣(3段目以内)に入玉している
・敵陣内に自分の駒が玉を含めずに10枚以上いる
・自玉に王手が掛かっていない
・持駒と敵陣内にいる駒の点数(大駒=5点、小駒=1点)の合計が24点以上ある

…の状態で自分の手番時に「宣言」し、その時点での両者の点数で持将棋または勝敗が決まる(上記条件が一つでも欠けた状態で「宣言」した場合は宣言した側の負けとなる)、というもの。
マチュアの大会では「27点法(※2)」なので引き分けはないが、プロの場合は今までどおり「24点法」なので持将棋・再試合があり得る。

「延々と勝負が続く事態への抑止力」との事だが、記事(堀口弘治七段の解説・羽生善治三冠のコメント)にもあるように「これがプロの将棋で適用される事はまずない(※3)」と思う。むしろこれはマチュアの将棋(道場での対局など、大会ではない対局)のためのルールになるかも知れない
将棋倶楽部24」では極稀に持将棋(引き分け)の提案を拒否して延々と指し続ける(相手が根負けして投了するのを待つ)輩がいるが(幸い自分はまだ遭った事はない)、そういうのを撲滅するのには非常に有効なルールだと思う。
もしかしたら近い将来に24の対局画面に「宣言」というボタン(宣言条件を満たさないと押せない)が追加されて、それを押すと自動的に持将棋成立(相手が23点以下ならこちらの勝ち)、なんて機能がつく… かどうかは久米さん(24の席主)次第(笑)。

ひとつ気になるのは「宣言したい側の駒が10枚ない」、つまり大駒4枚+小駒4枚か5枚、という状態の場合。持将棋の条件(点数)は満たしているが上記宣言条件の2番目を満たしていない、と言うより満たす事が出来ないので相手が宣言または同意しない限り延々と指し続けないといけなくなる。そしてその状態から指し続けると駒の数(8枚vs30枚)で押されて最終的に大駒4枚側が負ける(相手もそれを承知で指し続けてくる)可能性が高い。
そういう局面になる可能性は極めて低いだろうが、入玉宣言法というルールを導入する以上この点は(暫定施行が終わるまでには)はっきりさせるべきではなかろうか(※4)。

宣言で勝敗がついた場合の「手数」がどうなるのか、というのも疑問。例えば先手が通常の(?)勝利の場合、最後に先手が着手し後手が投了する(投了は手数に入らない)ため総手数は奇数になる。しかし先手が「宣言」して勝利した場合、最後に着手したのは後手なので総手数が偶数の状態で先手の勝ち、という状態になる。これってよくよく考えると後手が二歩などの反則で負けたのと同じ状態になってしまう。これを整合(?)する手段としては
・宣言者の指し手に「入玉宣言」を入れてそれを1手として扱う
・「入玉宣言」をされて負けた棋士は「反則負け」扱いになる
というのが考えられるが、どちらもいまひとつすっきりしないような。…もっとも、ルールとは全く関係ない話なので「どうでもいいじゃん」と言われたらそれまでかも知れない(笑)。

第60期王位戦七番勝負第4局(2019年8月20・21日)で「あわや宣言法での決着か」という将棋が指された影響なのかこの記事へのアクセス数が微妙に増えているので読みやすいようにしました(文言はそのままです)。

2・遅刻ペナルティの厳格化
今までは遅刻時間(秒単位切捨て)×3(ただし交通機関の遅延など止むに止まれぬ事情の場合は遅刻時間×1)を持ち時間から減算、0になったら不戦敗となる、というルール。
新規定は「遅刻が持ち時間の3分の1の超過、または1時間を超えた時点で不戦敗」。つまり今までは順位戦(持ち時間6時間)だと1時間59分までの遅刻はセーフ(ただし持ち時間は3分)だったが、新規定では持ち時間4時間以上でも対局開始時間から1時間以内(通常の対局開始は10時なので11時まで)に対局室に現れなかったらアウトになる。
お隣の囲碁界では以前から採用されている遅刻ルールなので「今更かい!」と言う人もいるかも知れないが…

このルールによって更新する事がほぼ不可能となった記録(?)が「昼食休憩時の手数
2009年3月の第67期順位戦C級2組最終戦中村亮介五段-△遠山雄亮四段戦(段位はいずれも当時、以下同様)があり、中村五段が1時間57分の遅刻をして規定により持ち時間9分で指すことになった(これが今回のルール改正の契機となった可能性は高い。ちなみに結果は中村五段が勝利している)。
この対局では先手中村五段の初手▲7六歩に対し後手の遠山四段は一手も指さずに(10分の考慮時間を使って)昼食休憩に入ったため、「2手目の局面で昼食休憩」という記録(?)が誕生した。後手の遠山四段に限れば「午前中1手も指さずに昼食休憩」という大記録(?)である。
一応意図的に狙えば(時間が減るのを承知で一手も指さない)更新は可能とは言え、そんな事をする棋士などいないだろうからこの記録は永遠不滅のものとなりそうである(笑)。

3・対局中に反則を犯したら即負け
「…そんなの当たり前じゃん!」と思われるでしょう。実際これまでの対局規定にもこの文言はありましたが、今回はこれに続いていた
対局者は相手の反則行為に対して、時計を止めて相手に反則の確認を求めることができる。」
の部分を削除してスッキリ(?)させたようである。
しかしそれでも週刊将棋の記事にあるように「待ったや時間切れ(証拠の残らない反則)だと水掛け論になりやすく、解決は極めて困難」だと思う。ビデオ判定なんかを導入するのならともかく(銀河戦での「待った」騒動はTV放送という事もあって判定?ができたが)、正直なところこの点は指す人のモラルに多くが委ねられるのはどうにもならないと思う。

4・電子機器の管理
ここはあえて週刊将棋の記事と順番を変えさせていただいた。

公式戦、非公式戦問わず、対局に際しての電子機器の取り扱いについては各自が管理する。ただし対局開始から終局まで、休憩時間も例外ではなく原則として電源をオフにする。この規定に違反があった場合は、役員会が違反の内容を調査し裁定することとする

…要はカンニング防止の一環(※5)であろうが、一昔前だったらこんな対局規定が制定されるなんて想像もつかなかっただろう。情報伝達手段の発達もさることながら将棋ソフトの進歩、中でもプロ棋士とも渡り合える将棋ソフトの出現がこの規則を制定させた事は間違いないであろう。升田幸三実力制第四代名人は数多くの画期的な新手・新定跡を指し、将棋というゲームに寿命があるなら、その寿命を300年縮めた男と評されたが、画期的な将棋ソフト(プログラム)「Bonanza」を開発した保木邦仁氏は将来「将棋の寿命を3000年縮めた男」と評されるかも知れない。
…そういう論議はともかく(?)、現時点では「各自が管理」という(ある意味曖昧な)表現にとどめられているが、この先「各自が管理」という文言を都合よく解釈する不届き者が現れたら大相撲や公営ギャンブルなどのように「対局前に全ての電子機器を(事務局などに)預け終局まで保管される」という感じになってしまうかも知れない。

個人的にはそういう事を考えるような輩がそもそもプロ棋士になれるとはとても思えない奨励会の例会は持ち時間がそんなに長くないのでカンニングをする余裕はないと思う)のだが、フリークラス転落(引退)の危機という瀬戸際に立たされた棋士がモラルなどをかなぐり捨ててこういう手段に出る可能性は考えられるので、やはり何らかの規則は必要(な時代になってしまった)なのだろう。他の業界だと重篤な違反者への「永久追放」処分も聞くので、将棋界でもこういう違反に対しては同様の処分(プロ棋士日本将棋連盟正会員資格の剥奪)は検討すべきではなかろうか。

5・連続王手の千日手について
これまでの規定は

同一局面が4回現れた時点で「千日手」となり、無勝負とする。ただし、連続王手による千日手の場合には、王手をかけている対局者が手を変えなくてはならない。なお、同一局面とは、「盤面・両者の持駒・手番」がすべて同一の場合のことをいう。

新しい規則では

同一局面が4回現れた時点で「千日手」となり、無勝負とする。なお、連続王手の千日手は反則である。(後略)

実は連続王手の千日手は今までは明確に反則と書かれていなかったのである。それが今回「反則」として明文化される事になる。
…この新規定に則ると、「最後の審判」の59手目▲6七角に対し△5六歩と逆王手で合駒をした場合(下図の局面)、これを▲5六同角と取る手は反則である、と明確に定められる事になる。
イメージ 1

ここで▲5六同角が(二歩などのような)明確な反則手であるならば上図の局面では先手(攻め方)の玉に王手が掛かっていてかつ合法手で王手を解消する手段が存在しない、という事になる。そうなると上図の局面は「先手玉は詰み」とはっきり定義されるため、後手は59手目▲6七角の王手に対し△5六歩と打つことが出来ない(打ち歩詰めになる)事になり、遡ってこの作品は(新規定の元で)完全作と認められるのかも知れない

…あくまでこれは一個人の見解であり、また「暫定施行」の文言をベースとした解釈なので最終的に文言(定義・解釈)が変わる可能性もあるので、できる事ならばこの件に対する突っ込んだコメント(批評)はご遠慮いただきたいです(苦笑)。

最後に、今回の記事のタイトルはとある音ゲーの楽曲名をアレンジ(パクリ?)したものだが、おそらく誰も気づかないでしょうね(笑)。


※1…「法案」「規則」ではないが、これにまつわる話として入交昭一郎氏(いりまじり しょういちろう、ホンダ副社長・セガ社長を経て現在は多くの企業の取締役に就任)がホンダでF1エンジンに携わっていた時のエピソードがとても印象深いのだが、完全に今回の話から逸脱してしまうので割愛する。

※2…先手なら28点以上、後手なら27点以上あれば勝ちとなる(将棋の駒は全部で54点分しかないので引き分けにはならない)。当然ながら宣言する為の条件「持駒と敵陣内に~」で必要な点数も同様の点数が必要となる。

※3…持将棋になるかどうかは指していて分かるので、宣言可能な局面になる前に今までどおり「両者の合意」で持将棋が成立、あるいは24点に満たない側の棋士が投了すると思われる、とのこと。

※4…アマチュアの「27点法」の場合ではそういう事がない(大駒4枚+小駒7枚=11枚なので宣言するための駒不足という事がありえない)ので、完全に「前例のない」状態である。

※5…今から30年ほど前には
「対局者は対局終了まで将棋会館から外出してはいけない」
という規則があったそうだが(食事は出前・持ち込み・当時はあった地下食堂で)、
「気分転換のための外出もままならないとは」
という棋士からの苦情が殺到して1年足らずで廃止されたようである。