DJカートン.mmix

他人に完璧を要求するのは質の悪い潔癖症のようなものだ。

指し将棋「最後の審判」(ネタバレ注意)

前回の記事の「チェスの出典」については目論見通り(笑)M先生に指摘していただきました。
ただ、コメント内にあるアドレスが途中で切れている(このまま貼り付けても見れない。ちなみに自分のコメントも途中で切れている)ので該当ページを探しました。

…ドイツ語です。自分にはほとんど読めませんでした。銀河英雄伝説が好きだからと言ってドイツ語に精通している(★1)わけではありません(笑)。
調べたところ白を持っているポール・モーフィーという人物及びこの対局は「チェスに詳しい人なら誰でも知っている」くらい有名だという事がわかった。それこそ「将棋に詳しい人なら誰でも『伝説の5二銀(の対局)』を知っている」のと同じくらい。
ちなみに記事からはこの対局の黒番はブランズウィック公爵とイゾアール伯爵(…このイゾアールという名前、どっかで聞いたような?)「合議制」だった、という事が読み取れる。「合議制マッチ」はこの時代からあったんだなぁ…(笑)

カロリーナ・ステチェンスカ(★2)女流3級が20日の対局に勝利して「女流1級の条件(女流名人戦予選決勝進出)」を満たしたことにより女流2級に昇級日本人以外では史上初となる正式な女流棋士が誕生した
ちなみに今回の昇級で女流2級への昇級条件「1年間で参加棋戦数と同数の勝ち星を得る」の「1年間」は女流3級の仮資格を得た日を基準(仮資格取得日から1年と残り1年)とする事が判明した。…わかりやすく書いておいてくれれば良かったのに。
インタビューでは最終盤で「頭が真っ白になった」と答えているが、その局面で持ち時間が35分も残っていたのは幸いだったと思う。そこで17分使って気持ちを落ち着けて△5五馬から先手玉を即詰みに討ち取った。
このニュースは国内だけでなく「NHK WORLD」から世界に発信されている。そのニュースの見出し

磨く(polish)女性が史上初の日本人以外の将棋プロになる」…ではない(笑)。言うまでもなく(?)「Polish(頭が大文字)」はポーランド人(語)の事である。
晴れて正式な女流棋士女流棋士番号は59)になり、物語だったら「めでたしめでたし」となる場面だが、現実の世界では当然これで終わりではない。女流名人戦でいうとこの次の予選決勝(相手はまだ決まっていない)を勝つと女流名人リーグ入りの規定で「女流初段」になる。これは過去に似たような成績で「女流1級を飛び越えた」女流棋士がいるので99.9%間違いない。
もしプロデビュー戦がこの予選決勝となってこれを勝利したら「デビュー1戦目で女流初段に昇段」という快記録である(残念ながら?その記録は長谷川優貴女流二段が達成しているので「史上初」にはならないけど)。

立体パズルが付属している「パズルコレクション」という雑誌が創刊されたようだが、これのCMを見た瞬間

史上最年少でプロ棋士となった藤井聡太四段が幼少時から立体パズルに触れていた、という話に便乗した企画・商品じゃないのか?

…と勘ぐってしまった。真偽はともかく、こういう時だけ将棋人気(?)にあやかろうとするスケベ根性はどうも好きになれない。
その藤井四段が登場する「AbemaTV」の企画『藤井聡太四段 炎の七番勝負 ~New Generation Story~』で対戦する棋士(のうち4人)が発表されている。
対戦相手は発表の少なくとも1か月前には決まっていたようで、先月21日のイベントでは増田康宏四段がその中に含まれている事が「フライング発表」されてしまった(発言者は「既に公に発表されている」と思って言ってしまった、との事。勿論の事ながらこの件は「箝口令」が敷かれた)。
…もう公に発表されたのでこの話を書いても問題ないですよね(笑)。

先日の記者会見で人間とCOMが対局する電王戦は今年で最後とする、という発表があった。

「…やっぱり?」

…以上(笑)。


★1…銀河帝国公用語はドイツ語(をベースにしたもの)という設定になっている(なので人名や船の名前などは大半がドイツ語)。…と言っても原作やOVA内では日本語に訳されて(?)いますが。

★2…「ポーランド広報文化センター」のHPでは(M先生の言う「ポーランド語の発音に近い」)「カロリナ・スティチンスカ」と表記されている(少し古い記事ですが)。「NHK WORLD」の英語のアナウンス(発音)はほとんど「カロリーナ・ステチェンスカ」だったので、「カロリーナ・ステチェンスカ」は英語読みに準じた表記なのかも知れない。


…さて、ここからが本題。
りゅうおうのおしごと!」に関するネタバレが含まれているので、読む方は自己責任でお願いします。またこの記事にリンクを張る場合は「ネタバレ注意」といった注釈をつけておく事をおすすめします。

…問題なければ下の方へスクロールして下さい。



































…本当に大丈夫ですか? 逃げるのなら今のうちですよ。



































…これが最後の警告です。本当に大丈夫なら下の方へ進んで下さい。



































…ここまで来たという事は覚悟が決まった、と見なします。じゃあ始めましょうか。

りゅうおうのおしごと! 5巻の背表紙に書いてある一文。

将棋という名の奇跡に最後の審判が下される、激闘の第5巻!

…自分はこの一文を読んだ時に何か「嫌な予感」を感じた。
気合の入った将棋ファン(特に詰キスト)にとって「最後の審判」というのは浅からぬ意味を持つ単語である。その単語をあえて使ったという事は…

…予感は的中した。このラノベは
最後の審判」を「指し将棋の局面」に登場させた
のである。

最後の審判とは何ぞ?」と思った方もいると思う。作品内でも説明されているが、何せ「図面がない」ので一体何が起きたのかわからない、という(りゅうおうのおしごと!の)読者もいると思う。そこで図面を使ってわかりやすく(?)説明しようと思う。気合の入った詰キストの方なら既に承知の事とは思うが、一応この記事は「最後の審判の概要を知らない人」に向けて書いているのでお付き合い願いたい。

最後の審判」というのは詰将棋の作品。下図がその初形。
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初手は▲5六角。説明すると長くなるので割愛するが▲6七角や▲7八角と離して打つのは詰まない
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▲5六角以下△4四玉▲3三銀引不成△5三玉▲4二銀引不成△5二玉▲7四角△6三角▲同角成△同玉▲8五角△6二玉▲5一銀不成△5三玉▲4二銀上不成△4四玉▲4五歩△同玉▲6七角△5六歩▲同角と進むと上の図と全く同じ局面が出てくる(途中の変化は割愛するが、上記手順以外の応手は全て詰み)。
そこから上記の手順(地が黄色い部分)を繰り返すとまた上の図と全く同じ局面=「3回目」が出てくる。
そこから△4四玉▲3三銀引不成・・・▲4五歩△同玉▲6七角と進んだ局面が下の図。
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ここで詰みを逃れる応手は△5六歩しかない(他の応手は詰み)。
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合駒の歩を打った事による逆王手である。これに対する先手の「合法的な応手(この表現がひとつのポイント)」は▲5六同角しかない
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▲5六同角と指した時点で「同一局面(1手目の局面)が4回出現」した事により「千日手となる。…が、この千日手が成立するに至る手順で「先手は全て王手をしている」。つまり「連続王手の千日手である。
今の規定では「連続王手の千日手は反則」と定められている。正確に表現するなら

千日手が成立した時それに至る手順が全て王手だった側は反則負けになる」

と言ったところか(千日手のスタートが「王手をかけた側」と「王手をかけられた側」の両方の場合があるので)。
この規定に従うと60手目△5六歩を▲5六同角と取る手は二歩などと同様の「反則手」という事になる。そして▲5六同角と指せないとなると△5六歩に対する先手の「合法的な応手」が存在しない、という事になり「△5六歩の王手で先手玉は詰み」という事になる。
例えば下の図、飛車の王手に対し▲2九歩と打てれば王手を防げるが二歩なので打てない2八の歩を▲2九歩とバックできれば王手を防げるがそれは「駒の動きを間違える」という反則である。玉が1七などにワープするのも同様である。結果として下図は先手に王手を解消する「合法的な応手」が存在しないので「詰み」、というのと(多分)同じ理屈である。
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…しかしそう定義すると最後の△5六歩は持駒の歩を打った(それで相手玉を詰ました)手なので「打ち歩詰め」という事になってしまう、つまりこの△5六歩も反則の一手という解釈になってしまう。
最後の審判ではこの「△5六歩は打ち歩詰めの為打てない」という解釈の元▲6七角に対して他の応手(△4四玉)を選ばざるを得ず、以下▲3三銀上不成以下詰み、という結末となる。
一方でりゅうおうのおしごと!」ではこの「△5六歩を打った局面」で対局者が立会人を呼ぶ(対局を中断する)事を求めた、というシーンになっている(※1)。

…このシーンの(立会人の)裁定及びその後の進行については(ネタバレ有でも)伏せておくとして、自分がこのシーン(5巻全部)を読んだ感想は

作者は禁忌を侵したのではないか

…禁忌という表現が適当なのかは言った自分にもよくわからないが(笑)、そう思った理由は3つ。

・将棋界においてこれに匹敵する(あるいは上回る)劇的な場面が(おそらく)存在しない
これまで将棋界において「劇的な場面(対局・局面)」というのは度々存在した。そのうちのいくつかはこのラノベに転用されている(自分が「出典がある」とわかった棋譜は少なくとも5局あった)。
しかし自分の知る限りこの「最後の審判」を上回る劇的な対局というのは聞いた事がないし、そもそもそんなものが存在するのかとさえ思う。つまりこれを使うと必然的にこれ以降のもしかしたら「りゅうおうのおしごと!」以降に世に出てくる将棋作品全てのシーンの盛り上がりが欠ける事になってしまう。実際5巻でこのシーン以降も話は続くが、「本来ならもっと盛り上がって然るべきシーン」が何だか「後始末」的な扱いになってしまっている。
作品のクライマックスをどこに持ってくるかというのは作者の考え一つなのでどうこう言っても仕方ないが、そのために「この世に一つしかない禁断の果実」に手を付ける、というのは…

この作品内で下された結論が「最後の審判の結論」である、という誤解を生みかねない
「その業界を題材にした作品が間違ったイメージを植え付ける可能性」というのをこのブログでは何度も書いたし、自分以外にもそれを危惧する人がいる、という話も書いた。それと同じ事である。ラノベはテレビやインターネットなどよりは「狭い」メディアとは言え、誤った情報が拡散する可能性がないとは言えない。少なくとも「0ではない」。誤ったイメージが拡散するのもあまりいい事ではないが、今回の場合誤ったルール(正確には「現時点では正解のないルール」だが)が世間に拡散してしまう可能性がある。それも「一作家ごときの浅い見解(※2)で決められたルール」が、である。

・指し将棋で最後の審判のような局面は出現するのか?
ある意味これが最大の問題。りゅうおうのおしごと!」では基本的に局面図というのは出てこない。対局の描写は主に
・部分的な符号のみ(5六歩、同角、4四玉、という感じ)で表現
・駒の動き(銀を引いた、飛車を打った、馬を捨てた、など)で表現
の2種類。うち前者はその符号から「元になった対局」を割り出せる場合もあるが(前述のように少なくとも5局はある)、後者だとほとんど判別不可能。だが、その「情報の少なさ」が逆にその局面を「適当に想像して」読むことができる、とも言える。
…しかし「最後の審判問題」の局面はそうではない。具体的な符号の表記こそないが「打ち歩詰めと連続王手の千日手が絡む局面」というとてもハードルの高い条件がそびえ立っている。その条件をクリアする局面というのは10の220乗と言われる将棋の局面のうちに一体いくつあるだろうか。

「だったら『最後の審判』をそのまま対局に援用すればいいだろ」
と言う方もいるだろうが、それには更に2つの大きな問題がある

・『最後の審判』に至るまでの手順は?
…指し将棋の局面として登場させる以上「そこに至るまでの手順」が必要になる。それも「最善手の連続で」。途中に次善手や疑問手などが混じるのは許容としても推理将棋のような「双方が協力したような手」が混じるのはプロの対局である以上絶対NGである。
そういう前提で「最後の審判の初形の2手前の局面」はどんな形だろうか?と考える。 …自分の棋力ではこの時点で答えが出せない(笑)。仮に出たとしてもその更に2手前、4手前… とても答えが出るようには思えない。そもそも実戦で「▲1一飛、△1二金、▲2一と」や「△3六香、△3七香」の形が出現するロジックが見えてこない(笑)。

・わざわざ連続王手をする必要はあるのか?
今書いたようにプロの対局である以上「指し手のほとんどはその局面の最善手」であり、また「双方が協力したような手は絶対NG」である。最後の審判をそのまま実戦に援用したとしても「王手をしないといけない」という詰将棋のルールまで援用される必要は全くない
…つまり手順中9手目(下図の局面)に▲6三同角成と指す義務はない(※3)わけで、その代わりに▲1二飛成、または▲2七桂と金を取っておけば後手玉は受けなし、先手玉は詰まないので「先手の勝ち」である。むしろ▲6三同角成は「『最後の審判問題』を意図的に作り出すための手」、言い換えるなら「自ら勝利を放棄する手」であり、そんな馬鹿な事をプロが公式戦で行うなんて絶対あり得ない。
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…そういう理由からこの場面に「最後の審判」をそのまま援用する事はできないのである。
それでもこの問題をプロの対局に出現させるには前提条件である「打ち歩詰めと連続王手の千日手が絡む局面」に加えて
・指し将棋として(つまり双方最善手かそれに近い手の連続で)その局面にたどり着ける事
・連続王手を始めたら「王手以外に最善手がない」局面(例えば王手をしないとこちらが詰む、とか)である事
という条件を満たす必要がある。
…果たしてそんな局面は将棋というゲームに存在するのだろうか? もしそれを証明できなかったら最後の審判問題を指し将棋に持ち込んだこと自体が『ダウト』」になってしまう(現時点ではそうなる可能性の方がはるかに高い)。

…以上の理由から(現時点では)指し将棋に最後の審判問題を持ち出すべきではなかった(つまり「禁忌を侵した」)、と考えた次第。こんな事を考えるのは自分くらいかもしれないが、そういう事に気づいてしまう、そしてそういう事を求めてしまう(フィクションだから、と見過ごすことができない)のはもはや自分でもどうにもできない性癖である(笑)。

…最後にもうひとつツッコミ。5巻の章タイトルの中に「来るべきもの」というのがある。この言葉も詰キストにとっては軽からぬ意味を持つ言葉(※4)であるので「使い方を間違えたな」とツッコんでしまった(笑)。


※1…作品内での実際の局面がわからない、そもそも手番が反対(最後の歩打ちが「先手の着手」になっている)だが、ここでは便宜上「△5六歩」を最終手とした。

※2…将棋界の大きさに対する一人の作家の影響力を例えた表現であって、このラノベの作者個人を侮辱した表現ではない、という事を断っておきます。

※3…他の局面でも金を取る手で勝ちかも知れないが、この瞬間なら「後手が角を手放している」上に「角が4七に利いている(△4七飛を▲同角と取れる)のでもっとも先手玉に対する危ない筋がない。

※4…煙詰(盤上の駒が煙のように消えて最後は攻め駒2枚+玉の3枚で詰み上がる詰将棋)の理論上最短手数を実現した作品で2015年5月号の詰パラで発表、作者は岡村孝雄氏。
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盤上39枚の駒のうち36枚が2手ごとに1枚ずつ消え、最後に詰ます1手を加えた73手詰め、という理論値を実現した初の作品。「その条件を満たす作品はいつか必ず作られる」という意味から「来るべきもの」というタイトルがつけられた…のだと思う。平成27年度の看寿賞長編部門を受賞。