ここ数日「最後の審判」という検索ワードでこのブログを見ている人が多いようである。おそらくはあのラノベ(と言うよりアニメ?)の影響だと思われるが、自分にとっては「向こう」で起きている事よりも増田康宏五段の昇級がかかった一番の方がはるかに重要である(理由は以前も書いた通り)ので正直なところどうでもいいと思っている。
「事実上勝つしか昇級の可能性はない」3月15日に行われた順位戦C2最終戦、対神谷広志八段戦は相掛かりで始まった将棋が千日手に。指し直し局は神谷八段が4手目△2四歩の角頭歩戦法。そこから角交換振り飛車っぽい将棋になりそこから形勢不明の乱戦に。そして迎えた最終盤。
増田五段が▲5三飛と詰めろをかけた局面だが先手玉には△6九飛成から詰みがあるのでは、と言われていた局面。
神谷八段は「詰みなし」と思ったのかこの局面(既に両者1分将棋)で1手も指さずに投了したが、実際は詰みがあった。手順は△6九飛成▲同玉△7八銀▲同玉△6七金▲8八玉(▲同玉は△5六角以下)△7九角▲9八玉△9六香・・・歩以外の持駒をピッタリ使い切って詰む。
先手は▲5三飛と打つ前に▲8二角と王手し、7三に何か合駒を打たせてから▲5三飛だったら紛れなく先手の勝ちだった(前述の理由から何を合駒しても先手玉への詰めろが消える)という。結果として「投了した事が敗着」という事になってしまった。
「投了した事が敗着」というと升田幸三実力制第4代名人の逸話が有名(?)であるが(※1)、その例も含めてこういう事が起きるのはある意味「その棋士に対する信用」だと言える。世間は藤井聡太六段一色だが増田五段も業界内では「次世代の旗手」と言われ実際に実績(新人王戦2連覇)を挙げている棋士である。そしてそれを持って相手を信用させられる、というのはやはり増田五段は「普通の棋士ではない」と思う。
かくして「ラノベもビックリするような」大逆転劇で増田五段はC1昇級を勝ち取ったわけだが、世間からは(特に藤井六段の信者からは?)「棚ぼた」などと酷評?されるかも知れない。しかしそういう事を言う人に限って
棚ぼたによる利益を得るには棚ぼたによる利益を得ることができる場所にいなければならない
という事実を知らなかったりする。つまり今回の場合は最終戦の段階で自力昇級の可能性があったからこその「棚ぼた」である。これが6勝4敗くらいの成績だったら単なる「逆転勝利」でしかない。
インタビューでは「昇級できてうれしい」と仰っており、それは紛れもない事実だとは思うが、今回の「決まり方」についてはとても納得しているとは思えない。師匠の森下九段(C2で5年苦しんだ)も昇級した事については喜んでいるだろうが、その過程については「喝!」と思っているかも知れない。かつて谷川浩司九段は
「A級で活躍するにはB1で最終戦を残して昇級するくらいでないといけない」
と仰っておられたが、これはA級に限らず他のクラスでも同様だと思う。おそらく森下九段も同じように考えているのではないだろうか(…考え過ぎ?)。
※1…
ある対局で、もつれた終盤戦で升田がバチッと力強く勝負手を放った。升田は自信満々に「詰みだな」と一言つぶやいた。相手の棋士は大棋士たる升田が詰みだと自信満々に言うので戦意を喪失してそこで投了してしまった。ところが局後の感想戦で詰んでいないことが明らかになった。相手方の棋士はつい恨み言を升田にぶつけたところ、升田は「プロがきちんと確認もしないで俺の一言で投了したんじゃあ、お前の棋力はそんなもんだよ」とうそぶいていたという。(Wikipediaより引用)
※2…B2、C1では
「3年連続で同一クラスにいる両者が2年連続で対戦していなかった場合3年目は必ず当たる(ただし該当者が11人以上いる場合はどうしてもあぶれてしまうが、そうなった場合その人とは次の年に必ず当たる)」
という組み合わせルールがあるが、藤井六段はまだ順位戦が2期目なのでこのルールは適用できない。なので「対戦があるかも知れない」。