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それって早い話「金儲けのための忖度」って事では。

目の前に対戦相手がいる場合・いない場合

28日に詰パラ2月号が届いた。2月1日が日曜日なので早く着く(あるいは2日以降になる)可能性は想定していたが、まさか4日前に届くとは…(1月号でも届いたのは29日だったのに)
まだ手元に届いていない方もいるかも知れないので、内容(拙作への評価とか)についてのコメントは2月になってから書くことにします。

以前ここで出題した実戦(指導対局)からの「次の一手」。覚えている人なんておそらく誰もいない…以前に書いた自分で忘れかけていたくらいである(笑)。
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下手の陣立ては基本的にこれでほぼ完成形。2筋の歩を突き合っている事もあるが、後に▲2五桂とこちらから跳ねる変化があるので下手から▲2六歩と突くものでもない(上手が△2四歩と突いて来てから受けるのが形だ)と思う。そうなるとここは▲4五歩と仕掛けるのが自然な流れと言えるが、自分がここで指した手は『▲1八香』
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じっと手待ち。上手の△1二香に呼応したような手であるが、この手はその「△1二香を見て思いついた手」ではなく以前から構想として温めていた(?)手である。ちなみにそのきっかけはこの指導対局の4ヶ月前、2014年8月の「東急将棋まつり」での森下卓九段との指導対局(上図と少し形が違う局面で▲1八香と指した)である。目の前に敬愛する森下九段が座っていたのでこの手がひらめいた…かどうかはわからない(笑)。

局後の感想戦で最初に触れられたのがこの手。及川六段の感想は
「こういう手を指す下手は珍しいです」
…そういうものなのかなぁ、とその瞬間は思ったが(別に及川六段を信用していないとかいう問題ではないです)、この手の話を順位戦解説会の「ティータイム」に森下九段と話す機会があった(※1)。勿論(?)この手のきっかけが森下九段との指導対局にあった事も説明しながら。すると隣に座っていた島九段が
「若手はそういう所でお世辞は言わないです」
…とても勇気付けられたような気がした。もちろんプロ棋士が自分の手(構想)に感心してくれた、という嬉しさもあるが、(時と場合にもよるが)自分は昔から「少数派と言われる(思われる)ことが褒め言葉」だと思っているので。
この▲1八香という手自体は手待ち(上手にもう一手動いて欲しかった)という意味もあるが、上手が既に△3三桂と跳ねているので、場合によっては▲1九飛と薄くなった1筋から攻め込もう、という狙いもある。その点が同じ手待ちでも▲9八香(上手の角の利きから避ける)とは意味が違う。実際本譜では▲1九飛と寄る手(下図)が出現している。
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実戦は▲1八香に△3一角。△1二香に続く想定外の手(※2)に戸惑う。角の利きが4筋から逸れたとは言えこの局面での▲4五歩は成立するのか。成立したとしても△1二香型(▲1一角成としても香を取れない)なので効果が薄いのではないか、などといろいろ考えた末に▲4五歩を決行。すると上手は△4五同桂。3連続想定外の手に思わず
「桂ですかぁ」
と(小声で)呟く。もっとも後で考えると△同歩は▲同桂△同桂(※3)▲同銀△4四歩に▲同銀の突撃が成立しそうだ。以下△同銀右▲同角△同銀▲同飛の局面(下図)は角銀交換の駒損だが上手は歩切れなので飛車成りを受けにくい(成自体は△4三銀で受かるが銀を使うのは何となく勿体無い上に▲4八飛と引いた時に次の▲4四歩をまた受ける必要がある)。
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本譜△4五同桂に▲同桂△6四銀▲3三桂打!と怪しい手が飛び出す(他に手が思い浮かばなかった、というのが本当のところか)。以下△7五歩▲4一桂成(4一の成桂はここで出現した)△2二角▲7五歩△同銀▲7六歩(※4)△6四銀▲1五歩△同歩▲3五歩△同歩▲1九飛で3枚目の局面図に至る。▲1九飛のところでは▲1五香△同香▲3三歩で一応の戦果は上げられるが、△同金▲同桂成△同角の局面は(金と桂香の)2枚換えで歩切れなので下手が面白くないと思う。▲3五歩の突き捨てはそちらの狙いよりも後に角交換となった時に▲1五香△3七角▲3九飛△1五角成に▲3五飛とさばくための足掛かりの意味が強い。
▲1九飛以下は△4五桂▲2二角成△同金▲4二成桂△3三金▲4三成桂△同金▲5二銀と進行(3三に打ち込んだ桂馬の「顔が立った」)、その後前述の手順が出現し香損ながら飛車を成り込む事に成功する。
実戦は飛車成りから20手くらい進んだところで時間切れで指し掛け。もし続いていたらどうなっていたかはわからないが、▲1八香という深慮遠謀(※5)の構想?に一応の手応えはあったと思う。実際感想戦では「△3一角の瞬間の▲4五歩が機敏でしたね」と言われたので。

ところで、以前「詰キストあるある」として「詰キストは指し将棋でも華麗な捨て駒のある手順を選びたがる」なんて話を書いた。先ほどの▲4五歩の仕掛けが華麗かどうかはともかく、▲1八香といった「地味~な手」は詰キストの好むところではない…ような気もする。もっともその手自体は地味でも「数十手後にその意味が現れる」とかいう手だったら別だろうが。
自分はどちらかと言うとこのような「じっと待つ手」のほうが好きなのだが、不思議な事にネット(24)で指しているとなかなかこういう手が指せない。言うなれば「ブレーキが効いていない」ような状態になる事が多い(時にはそれが功を奏して?快勝する時もあるが、大抵は対局終了後に振り返って「この仕掛けは暴発気味だったよなぁ」などとぼやいている)。

ネット(掲示板など)の書き込みなんかが顕著な例と言えそうだが、人間というのは「当事者が目の前にいないと攻撃的(強気)になる」ものらしい。あるいは「姿の見えない相手は軽視しがちになる」のか、相手への対応(将棋だと指し手)が雑になりやすいような気がする。もっとも「姿が見えない」と言っても相手の素性(地位とか実力とか)がハッキリとわかっている場合は別かも知れないが。
一方で「対戦相手が見えている(わかっている)ことが相手を萎縮させる」という事もありうる。例えば今回の指導対局対戦相手のプロ棋士(及川六段)が目の前にいた。もしかしたら今回の指導対局はその「看板」がこちらに不用意な(腰の入っていない)攻めを戒めさせてくれた(※6)のかも知れないが、それが行き過ぎる(相手を恐れ過ぎる)と「踏み込むべき局面で踏み込めない」、という事になっていたかも知れない(何せプロ間でも「羽生名人の指した手を過大評価してしまう」という事があるくらいなので)そういう心理が働く(時にそれが指し手・勝敗に絡んでくる)のが人間の勝負の面白いところでもあり弱点であるとも言える。かたやCOMには「相手を恐れる」なんて要素は1μもないわけで、それはそれで強みである一方で(人間同士の「心を交えた」勝負に慣れた人には)味気ないものに見えるかも知れない。


※1…両国将棋囲碁センターのHPにそのシーンの写真が掲載されている。ただし映っているのは森下九段の姿と自分の「指」だけ(笑)。

※2…自分は△6四銀を想定していて、それに対する手段も用意していた(具体的な手順は秘密)。

※3…定跡手順に出てくる△4四歩は▲3三桂成△同金▲4五桂の両取り。これを△同歩と取れない(▲3三角成と金を抜かれる)。

※4…打たずに▲3五歩(△同歩には▲3三歩)も考えたが、放置されて△7六歩を利かされるのは良くないと考えて我慢。感想戦でも示したが及川六段も同じ考えだった。

※5…「深謀遠慮」と書かれる事も多い(両方の単語で検索するとおよそ5:1の比率で「深謀遠慮」がヒットする)。こちらは「一生懸命」「一所懸命」と違ってどちらも間違いではない(「一所懸命」の本来の意味は「一生懸命」とは違う)。

※6…もっとも▲1八香は前述のように「予め用意していた手」なので、自分のはやる気持ちを戒めた(▲1八香と力を溜めさせてくれた)のは森下九段である、というほうが真実に近いのかも知れない。