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それって早い話「金儲けのための忖度」って事では。

ここ最近の将棋界の出来事(?)

7月19・20日とかけて行われた「リベンジマッチ」は菅井五段のリベンジ不成、ではなくリベンジならず。
2日がかりで行うのなら「電王戦森下ルール(仮)」をやれば良かったのに、なんて思ったが、手数が伸びるとニコ生23時間(…だったっけ?)の放送枠で終わらない可能性もあったかも。
ただ、「一度くらいは試してほしい」という思いはある。勝敗(このルールがどれだけ人間にとって有用か)という面もあるが、それ以上に対局中に継ぎ盤で検討(する所を放送)する=「対局中のプロ棋士の思考法を視覚的に見る事が出来る」わけで、これはこれで非常に興味がある(人がいると思う)。例えば1つの局面でパッと見える候補手が3つあった時にどの手から読みを進めるか、とか。やはりその人の棋風が出る(たとえば森下九段だったら「受け志向」の手から読む)んでしょうかね。

7月20日は詰将棋全国大会が行われた
…のだが、自分は参加できなかったいろいろと日程調整を試みたが、自分にとっては8月17日のトークショー「現代の名匠の二人が語る(※1)」のほうがはるかに優先順位が高い(笑)ので断念せざるを得なかった。翌日(21日)だったら参加できたのだが…
来年は大阪開催(名古屋→東京→大阪→その他→名古屋…と持ち回り開催)だが、果たして参加できるだろうか…

7月25日は竜王戦2組昇級者決定戦、森下卓九段-稲葉陽七段戦(携帯中継がある)。
ランキング戦1回戦(1月10日、高橋九段戦)は2組の開幕戦だったが、昇級者決定戦1回戦は2組の最後の対局(全クラス通じても昇級者決定戦1回戦はこの対局以外全て終わっている)。期をまたいでいないのに同じ棋戦の対局が半年以上開くのは非常に珍しい(と思う)。
以前も書いたが「負けたら全てが終わる(3組に落ちる)」し、公式戦自体がほぼ1ヶ月ぶり(※2)なのも少し心配だが、自分は携帯片手に応援する(見守る)しかない。

…ここからが今回のメインテーマ(?)。
「羽生を負かさなければこの世界ではいい思いをできない」
なんて事を言った棋士がいるそうである(※3)。
今の将棋界を表すに最も適した表現ではないか、と思う。たとえば「いい思い=タイトル獲得」と定義するなら、現在現役の棋士「タイトル戦出場経験がある棋士羽生善治と番勝負を戦った経験が無い棋士」はほとんどいないという事実がそれを証明している(※4)。
無論中には「羽生を負かしていい思いをした」棋士もいる一方で「羽生に負かされていい思いをできなかった(できずにいる)」棋士も多く、中でも森下卓九段は後者の典型的な例ではなかろうか(タイトル戦登場6回のうち4回で当たって全て敗退、2013年度までの対戦成績は14勝38敗)。

そんな天敵(?)と銀河戦本戦トーナメント11回戦で対局(放送は7月17日)両者の対局自体は3年ぶり(第19期銀河戦決勝トーナメント)で、最後に勝ったのはいつだかわからなかった(苦笑)。
タイトル戦以外にもここ一番という所で対戦して悉く(?)敗れているので、それこそ「顔も見たくない」と思う相手かも知れないが(自分だったらそう思うだろうなぁ…)、当の森下九段は羽生名人の事を
「大恩人です。彼がいなければC級で終わっていたと思います」
と評している。将棋界における『羽生善治』の存在(立ち位置)は我々が考えているほど単純ではないのかもしれない。
なお今期銀河戦の森下九段は本戦トーナメントBブロックの「最多勝ち抜き」による決勝トーナメント進出(&次期銀河戦の予選免除)は決定しているので、見ようによっては「消化試合」にも見えてしまうが、だからと言って手を抜く棋士は一人もいない今回のように「新手の実験?」をする事はあるかも知れないが(※5)。
今の自分にはCSを見る環境がないが(棋譜銀河戦のHPで見れる)、ちょうど間のいい事に(?)週刊将棋7月23日号に当対局の解説が載っているので、それを参考にしつつ自分の感想を述べようと思う。

対局は森下九段の先手で相矢倉。本局は急戦調にも森下システムにもならず、現代矢倉の主流である▲3七銀戦法へ。▲6五歩と伸ばす「宮田新手」もよくある進行だが、その数手後の▲6六金という手が珍しい…と言うか新手らしい従来の定跡ではここで▲3五歩や▲5五歩、▲1五歩(最終的に全部突く事も多い)。
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一目見た感じはこの金を繰り出して▲7五歩から大駒を責めるのが狙いに見える。「森下システム」でも右金を(後手の5筋歩交換に乗じて)5六~6五と進出する(後手の角を責める)定跡があるので、それに通ずる(≒森下九段らしい)ものがありそうである。
対する羽生名人は「それはいかん」と言わんばかりに△3三桂と動く。以下▲同桂成△同銀上▲2五桂を△同銀と食いちぎる。▲同桂△4五歩▲3七銀(「銀損定跡」のように▲4五同銀△5三桂…とは行きにくそうだ)△8六桂とゴリゴリと攻める。
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それに対し森下九段は銀得という事もあってか▲7九桂・▲9八銀と自陣に投入して受ける。
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…個人的な感覚で言うと、こういう凹んだ感じの(受けの)手は「よほど自信のある時」か「よほど自信のない時」でないと思い浮かばない、あるいは思い浮かんでも指せない手だと思う。
自信というのは局面に対してもそうであるが、それ以上に対局者の心境に大きく左右される、つまり近況や対戦相手に不安や恐怖を覚えて気持ち(指し手)が弱いほうに流れてしまう、というのは
将棋に限らず対戦相手のいるほとんどの競技について言える事である。
森下九段の心境を察する事はできないが、近況から考えて後者ではないと思う(願いたい)。

少し進んで下図。僅か9手(羽生名人の指し手に限ると5手)で8一(攻め)の桂と7七(守り)の銀が交換になっている時点で既に森下九段が芳しくないようにも見えるが、4種類ある応手のうちここで森下九段は▲同金上。
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…モニター(銀河戦のHP)を見ながら
「え?! そう取るの?!」
と叫んでしまった。無論自分の読みが正しい保障なんてあるわけないが(だからと言って「絶対違う」とも言い切れないが…)、ここは見る聞く無しに▲同玉だと思っていた7九と9八が塞がっている(=狭い)先手玉は「居心地が悪い」ように見えてならない。
壁銀の大悪形(森下九段の口癖)で横から攻められると7筋までしか玉が逃げられない(つまり狭い)、と教えられるが、この先手玉もそれに近いものがある。もっとも森下九段ともなると「居心地の悪そうな玉でも苦にならない」のかも知れない(※6)。

本譜は以下攻め合いとなったが、飛車を取られた(見切った)あたりから自分の目にも攻めが足りなくなったように見える。最後は形作り(詰めろ龍取り)をして投了。またも羽生名人に勝てず。
…って、今年度の羽生名人は7月の王位戦まで無敗(収録は6月5日)、という時点でどちらが勝ったか一瞬で分かってしまうのだが(笑)。


※1…正式なタイトル(内容)は
「居玉も矢倉も原点は同じ。詳細で綿密な組み立てと、追随を許さぬ職人感覚の融合。前例は参考でしかない」
現代の名匠の二人が語る
~常識を疑い、圧倒すること。そのために学びと準備・実戦では相手が気づかぬうちにすべてを終わらせる。それが私たちのシステム~
こんなに長いタイトルの解説会・トークショーなんて聞いた事がない(笑)。ちなみに案内のメールが来た(両国将棋学術会員にはイベント予告のメールが届く)2時間後には参加申し込みのメールを送信していた。 詰将棋の解答・創作もこのくらい光速だったいいのに(苦笑)。

※2…6月25日くらい?にテレビ棋戦の収録があった模様。それを除くと6月11日の順位戦まで遡る
(B2の2回戦は抜け番だった)。

※3…自分の記憶が確かならば言ったのは行方尚史八段。

※4…第2期竜王戦(羽生の初タイトル)以降にタイトル戦に登場した棋士は30人いる(羽生本人を除く)が、その中で前述の条件に当てはまる棋士
中田宏樹八段(谷川浩司王位)
真田圭一七段(谷川浩司竜王
豊島将之七段(久保利明王将)
の4人。引退・物故棋士を含めても中原誠十六世名人、村山聖九段を加えた6人しかいない。
広瀬章人八段(当時六段)は深浦康市王位からタイトルを奪取して「羽生を負かさずにいい思いをした」数少ない棋士だが、その翌年に羽生二冠(当時)の挑戦を受けて失冠しているし、豊島七段も来週の王座戦挑戦者決定戦に勝ってタイトル戦に進出すると(待ち受けるのは羽生王座なので)このリストから名前が消える。

※5…似たような状況と言えるかわからないが、佐藤康光九段が1戦残してA級復帰を決めた順位戦の最終局(2011年2月4日、対豊川孝弘七段戦。13回戦が抜け番だったので2月の12回戦が佐藤九段の最終局となった)で公式戦では多分初となる「升田式石田流」を指している(この少し前に出た「佐藤康光の石田流破り」に「これまで石田流の振り飛車側を持って指した事がない」と書かれている)。
ちなみに結果は佐藤九段の負け。

※6…平成9年くらいのA級順位戦で「居心地の悪そうな」9五の地点に玉が80手くらい居座った(そのまま後手玉を詰まして勝った)、なんて将棋があったはず。