まず最初に反省(のようなもの)。
本当はもっと早く書くべきだったのだろうけど、「解答募集期間内」にこういう事を書くのはまずかろう、という事で今書くことにした(…答えを書くわけではないので大丈夫ですよね?)。
…何故『△1二香』を置いたのだろう。
…そう思ったのは12月号を見た直後(笑)。創作当時の記憶があやふやだが、確か当初は『△1一香』だったと思う。しかしこれだと余詰がある。そこで何気なく1マス前進させたら余詰が消えたので「これでOK」と思ったのだろう。あるいは『△1二香』がいないと別の余詰がある、と思い込んでいたのかも知れない。
しかし掲載後に(柿木将棋Ⅸで)調べたところ、「香車を置かなくても余詰はない」という回答が。
…きっと3月号にはこの『△1二香』に対する厳しい評価がズラズラと並ぶのだろうな、と考えると非常に憂鬱である(笑)。
1組以外はランキング戦で敗れると決勝トーナメントへの道が即断たれるのだが(2組の決勝を除く)、それ以上に1回戦で勝つと負けるとでは
「次期竜王戦では今の在籍クラスを落ちる可能性がない」「降級の可能性がある」
という天地ほどの大きな差があるので、ランキング戦1回戦の重要性はプロ棋士(特に上の組にいる・いた人)なら嫌というほど理解していると思うし(1組~3組は昇級者決定戦1回戦で敗れると即降級が決まる)、特定の棋士を応援するファンとしても落ちる可能性があるとないとでは見方が大きく変わってしまう。
…いろいろ述べたところで一ファンでしかない自分には「頑張ってください!」と応援する事しかできないのですけど(笑)。
「ハム将棋」というのをご存知だろうか。
おそらく将棋好きな人なら一度は名前を聞いたことがあると思われるが、ネット上にある将棋対局ソフトである。相手が(どういう理由なのか)ハムスターなので「ハム将棋」という名称。
そういうわけなので自分も存在は知っていたが、対局したことはないので実際どのくらいの棋力なのかは知らなかった。
そこで年末年始に暇を持て余していたので(笑)平手でやってみたところあっさり(?)勝ってしまった、それどころか「8枚落ち(※1)」でも勝ってしまったので今ひとつ棋力が分かりづらい。
…そこで、誰か適当な対戦相手はいないものか、と考えて思い立ったのがファミコンソフト「本将棋 内藤九段将棋秘伝」。1985年にセタ(※2)から発売された(多分)ファミコン初の将棋ゲーム。タイトルにある「内藤九段」は監修を行った内藤國雄九段の事。
このゲームの対戦相手(下の画像=タイトル画面の右に座っているやつ、名前がわからないので見た目から便宜上「将棋ロボ」と呼ぶ)とハム将棋が平手で戦ったらどちらが勝つのか、という実に意味不明な実験(笑)をしてみた。
なお、両ソフトを連結する手段がないので、ファミコンとPCを並べてそれぞれ手入力、という実に非効率的な方法(笑)で検証しました。
もし将棋ロボに負けるとしたらハム将棋は相当弱い部類になってしまうのだが果たして…
ハム将棋(平手)の手番はランダムで決まるので、とりあえずハム将棋を開始してその手番に合わせて将棋ロボの手番を決める(結果将棋ロボの先手となった)。
将棋ロボには乱数要素がないので、こちらが特殊な動きをしない限り100%同じ駒組みしかせず、一つの局面に対する次の一手は何回やっても同じになる(これを逆用して20手未満で詰ませる事も可能だが、今回の話とは関係ないので割愛)。
インプット(?)されている戦法は先手でも後手でも四間飛車。相居飛車と違って序盤に複雑な駆け引きがない、ぶっちゃけ「振り飛車の序盤は相手の陣形を見なくてもいい(by鈴木大介八段)」というのが(容量の限られた)ファミコンソフトに適していたのだろう。
ちなみに唯一違う戦法を選ぶのが初手から▲7六歩△同歩▲2二角成と角交換した場合(矢倉を目指してくる)。
相手が居飛車ならこれでもいいのかも知れないが、振り飛車相手にこういう形からの仕掛けは一目「ありえな~い」、それこそ棋力が近い人同士の対局なら100局中95局以上は振り飛車が勝ちそうな局面である(笑)。
以下▲7五同歩△同銀▲3六歩△8六歩▲同歩△同銀▲5九角と進むが、この形なら△8六歩を▲同角!と取る手(下図)が成立しそう。
この▲8六同角に対し
・△同銀なら▲7一飛成の王手飛車。
・△同飛は▲同歩で銀取りと▲7一飛が残る(以下△9三角と受けても▲7五飛△同角▲7一飛の王手角取りで先手銀得になる)。
・△7四歩も▲同角△同歩▲同飛で(後手は歩切れなので)次の▲7一飛成を受けにくい。
…いずれも先手優勢の分かれであろうし、それこそ本譜の△8六同銀に(▲5九角ではなく)▲同角△同飛▲7一飛成でも互角以上と言えるが、残念ながら将棋ロボにそういう(大駒を切る)思考ルーティンは備わっていないようだ(大駒の逃げる場所がなくて止む無く、という場合は除いて)。
…もっとも、当時の将棋ソフトには「評価関数」というややこしい(?)要素がなく(ソフトにそれを組み込む・計算するための容量がない)、その瞬間の駒の損得くらいしか形勢判断の材料がない。
それこそ下図のような局面でも「瞬間的な駒得」しか考えられない将棋ロボはあっさりと△3一同玉と取って(次に▲3二金と詰まされて)しまう、というのが当時の将棋ソフトの限界だった(今のコンピューター将棋事情しか知らない人にとってはとても信じられない話かも知れない)。
…対局に戻る。▲5九角の瞬間は次に▲7一飛成があるので△7三歩と受けたのは自然だが、そこで▲7四歩の合わせを考えたら強く△7七歩のほうが良かったと思われる。
ただ、ハム将棋の△7三歩に対する将棋ロボの次の手は▲1六歩というのんびりし過ぎ(笑)の手。以下△8七銀成▲6八飛△8八成銀…と自ら大駒を使えなくする手で形勢はハム将棋側に傾く。
…このままハム将棋が押し切る(完封する)か、と思われたが、飛車交換から王手で飛車を下ろされたあたりから雲行きが怪しくなる(自玉の形から「相手に飛車を渡さない攻め方」を考えるのが「正しい大局観」というやつであろう)。
そして将棋ロボに訪れた最大のチャンスが下図。
ここで△5二金なら先手から速い攻めがないので、次に△3七香くらいでも後手の勝ちだったろう。あるいは金取りを放置して△4八銀(△3九角以下の詰めろ)でも攻め合い勝ちだったと思う。しかしハム将棋は△6三金。以下▲同馬△同龍▲5三金。
先ほど「将棋ロボに大駒を切るという概念はない」と書いた矢先の▲6三同馬には驚いた(笑)。それはともかく、ここでの最善、というよりほぼ唯一の受けは△6二銀打。龍を逃げると▲5一龍以下の3手詰めが生じるし、他の手では▲6三金と龍を取られてしまう。…しかし、ここでハム将棋が指した手はなんと「△6七龍」。ハム将棋が今から30年前の将棋ソフトに敗れてしまうのか、そしてあの「人を小馬鹿にしたような詰みのメロディ」が鳴り響くのか…?
…しかし! やっぱり(?)将棋ロボには「大駒を切るという概念はない」らしく(ハム将棋は大駒を切る。例えば本譜80手目)、次の手はなんと▲4三金。即詰みを逃しただけでなく、自ら詰めろを解除してしまうという史上最悪の手(笑)である。そして次の△4二歩に対し▲同金と取った と言うより「タダで捨てた」 手で更に史上最悪記録を更新(笑)。
しまいには▲3七桂と守り駒が相手の攻め駒に突撃するという、自らの寿命を縮める手(笑)を指したとあってはもはやどうにもならない。以下短手数でハム将棋の勝ちとなった。
この対局の棋譜は以下の通り。下地の色の違う部分を「コピー」し、棋譜再現ソフト(柿木将棋やKifu for Windowsなど)に「貼り付け」すると(盤に並べずとも)再現できます。(太文字は局面図を載せた手。そのままコピーしても問題ありません)。
…もっとも、この棋譜を並べる(ソフトを使って再現する)価値があるか、と言われると自信は全くありませんが(笑)。
先手:将棋ロボ
後手:ハム将棋
▲76歩 △32金 ▲66歩 △34歩 ▲78銀 △84歩 ▲68飛 △42銀
▲67銀 △62銀 ▲48玉 △85歩 ▲77角 △41玉 ▲38玉 △52金
▲28玉 △74歩 ▲38銀 △73銀 ▲58金左△64歩 ▲46歩 △84銀
▲78飛 △94歩 ▲47金 △75歩 ▲同歩 △同銀 ▲36歩 △86歩
▲同歩 △同銀 ▲59角 △73歩 ▲16歩 △87銀成▲68飛 △88成銀
▲77桂 △99成銀▲69飛 △88飛成▲58銀 △95歩 ▲37金 △14歩
▲47銀左△74歩 ▲39金 △58香 ▲68角 △66角 ▲58銀 △77角成
▲同角 △同龍 ▲99飛 △88龍 ▲59飛 △25桂 ▲26金 △33桂
▲89歩 △68龍 ▲49金 △65歩 ▲69飛 △79角 ▲68飛 △同角成
▲61飛 △51金 ▲65飛成△78飛 ▲63角 △52金 ▲81角成△58馬
▲同金 △同飛成▲61龍 △51銀打▲73角 △62金打▲同角成△同金
▲71龍 △48龍 ▲49金 △57龍 ▲69香 △68歩 ▲同香 △同龍
▲21銀 △31金 ▲45桂 △21金 ▲33桂成△同銀 ▲45桂 △24銀
▲53桂成△同金 ▲54歩 △63金 ▲同馬 △同龍 ▲53金 △67龍
▲43金 △42歩 ▲同金 △同玉 ▲82龍 △52歩 ▲37桂 △同桂成
▲同銀 △25桂 ▲48銀 △37銀 ▲同銀 △同桂成▲18玉 △28金
▲17玉 △27成桂▲同金 △同龍
まで132手で詰
…念のため(?)先後反対にしてもう一度対局させたが、ほぼ同じ形の進行(先手後手の関係で美濃囲いの端歩を突いていない)からやはりハム将棋が勝った(こちらは将棋ロボに「最大のチャンス」が来ないまま終局。なお、こちらの棋譜は割愛)。
…今回の検証の結果から、「ハム将棋に平手で勝つにはそこそこの棋力は必要」という結論に達した(笑)。何しろ常識的に考えれば「既に振り飛車優勢」と言える局面から将棋ロボは負けてしまったのだから(今から30年くらい昔のソフトとの比較だから仕方ないと言えば仕方ないのだけど)…
2枚落ち→両方の金を落とす
4枚落ち→両方の金・銀を落とす
6枚落ち→両方の金・銀・桂を落とす
8枚落ち→両方の金・銀・桂・香を落とす、俗に「トンボ将棋」とも言われる形
9枚落ち→飛車と両方の金・銀・桂・香を落とす
となっている。残念ながら自分は9枚落ちは勝てなかった…
手合割:その他
上手:DJカートン
上手の持駒:なし
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・v玉 ・ ・ ・ ・|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・ ・v角 ・|二
|v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩|七
| ・ 角 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 銀 金 玉 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
下手の持駒:なし
下手:ハム将棋
△84歩 ▲78金 △85歩 ▲76歩 △86歩 ▲同歩 △同飛 ▲87歩
△76飛 ▲26歩 △74飛 ▲25歩 △42玉 ▲96歩 △32玉 ▲69玉
△34飛 ▲68銀 △31角 ▲48銀 △54歩 ▲95歩 △64角 ▲94歩
△同歩 ▲同香 △55歩 ▲72歩 △54飛 ▲71歩成△97歩 ▲同桂
△96歩 ▲85桂 △97歩成▲66角 △86歩 ▲同歩 △同角 ▲93角成
△87歩 ▲77銀 △95角 ▲72と △88歩成▲68金 △87と寄▲66銀
△78と寄▲同金 △同と ▲同玉 △56歩 ▲73桂成△57歩成▲同銀上
△76歩 ▲55歩 △44飛 ▲46歩 △77金 ▲69玉 △67金 ▲68歩
△57金 ▲同銀 △77歩成▲78歩 △56歩 ▲同銀 △46飛 ▲47金
△44飛 ▲45歩 △64飛 ▲59金 △76歩 ▲36歩 △78と ▲同玉
△77歩成▲89玉 △78銀 ▲99玉 △98歩 ▲同玉 △87銀成▲99玉
△88と
まで89手で詰
※2…1985年創立のゲーム会社。「内藤九段将棋秘伝」以外にも『森田将棋』シリーズや『金沢将棋』シリーズもリリースしている。
この事から当時のゲーム雑誌では「将棋ゲーム専門会社」などという揶揄がされていたが、実際は将棋以外のソフトも出している(麻雀・パチンコと言った「大人の嗜好品」が多かった記憶がある)。
2009年に事業を親会社のアルゼ(現・ユニバーサルエンターテインメント)のグループ会社に引き継いで解散。
※3…佐藤康光九段が第19期・第20期の竜王戦七番勝負で合計3回「2手目△3二金」を指した時も相手の渡辺竜王(当時)が居飛車党である事を承知の上での「挑発」と言われたが、佐藤九段曰く「挑発ではなく、論理に基づく手」で、後に矢倉を指向する相手に効果的だ、という評価を得ている。