これは単純に「ホーム」と「アウェー」の差と考える人もいるが(今回勝ったのは地元フランスの馬、通算でも優勝馬の7割がフランスの馬)、同じ芝の競馬場でも日本とヨーロッパでは性格が大きく違うというのも大きな要因だと思う。簡単に説明すると日本の競馬場は「芝が浅い」「馬場が硬い」のでスピード重視、欧州の競馬場は「芝が深い」「馬場が柔らかい」のでパワー重視、と要求される能力が違うのである(本当に強い馬ならどちらにも対応できるのだろうが)。実際ジャパンカップと凱旋門賞(ともに芝2400m)を両方勝った馬というのは2013年の時点では存在しない(※1)。でもその壁が破られる(要は日本馬が凱旋門賞で優勝する)日は昨年・今年のレースを見る限りそう遠い日の事ではなさそうな気がする。
その盛り上がりの陰であった競馬界のニュースが「JRA最後の女性騎手が引退」。
その時点で唯一のJRA所属の女性騎手だった増沢(旧姓:牧原)由貴子騎手が9月30日付で引退し、JRAから女性騎手が姿を消した(地方競馬には今も何人かいる。また競馬学校には女性の候補生がいる)。ちなみに牧原騎手(当時の姓)はJRA初の女性騎手の一人(1996年デビュー)でもある。
騎手というのも一応実力主義の世界なので、実力のない人間はどんどん騎乗機会が減り最終的には廃業(引退)に追い込まれる、のは他のスポーツとあまり変わりない話なのだが、競馬の場合単純に「下手だから」という理由だけでは片付けられない面もある。
と言うのは、日本の競馬界には古くから「女に馬は御せない」という盲目的な悪しき因習、早い話が「男尊女卑」の思想が根強く残っている(※2)、と言うのである。実際牧原騎手をはじめとする女性騎手は他の同期の男性騎手と比して初年度から騎乗馬の質・量ともに冷遇されていたと言う。その点を言及した(元関係者の)著書もいくつか出ているし、自分も「元・ホッカイドウ競馬の調教助手」という女性の人から同様の話(実体験とか)を聞いた事があるので、これが真実の一端であるのは間違いないであろう。
その点ボートレース界はその草創期から女性も選手になれるよう道が整備されていて、その開明度は競馬界とは雲泥の差とも言える(…言い過ぎ?)。2013年現在では選手全体(およそ1600人)の1割強(約180人)が女性で、彼女等は男性と混じってレースをし、男性を打ち負かす事も珍しい話ではない。その一方で「女子王座決定戦」「賞金女王決定戦」(共にGⅠ)を頂点とする女性選手のみが出場する開催、通称「オール女子戦」も定期的に開催されている。売り上げも通常のレースよりも多い(詳しい資料がないので概算になるが、男性のみの一般競走とオール女子を比較すると2倍以上の差がある)。
最近はいろいろな競技で「女性部門」を見かける。将棋や囲碁などは結構古くからあるが、野球やサッカーなどのスポーツはそれこそここ数年の間に急速に知名度が高まったと思う。競輪でも2012年に「ガールズケイリン」として女性競輪選手(女性部門)が再登場している(※3)。実力では男子部門に及ばなくとも、その華やかさはファン(特に女性)に訴えるものがあるのだと思う。自分も最初に見たボートレース(笹川賞。※4)に女性選手がいなかったらこうも短期間で一気にはまる事はなかったかも知れない(笑)。
このように「女性選手」「女性部門」の存在は思った以上にその業界に影響があるのだと思う。よく業界再編策の一つとして「底辺層の拡大・強化」なんて事が言われるが、それをするために必要なものは「女性選手(部門)の強化」なのかも知れない。何と言っても人類の半分は女性ですから。例えば将棋界もここ数年で「マイナビ女子オープン」「リコー杯女流王座戦」という優勝賞金500万円の棋戦 アマチュアも参加できる が出来てから俄かに活性化してきたと思うし(…と考えるのは自分だけ?)。
…じゃあ競馬界も女性騎手が増えたら(活躍したら)売り上げが回復するのか、って? …多分効果はある(もしかしたらそれが現時点でもっとも有力な方法なのかも知れない)と思うが、そのためには競馬界の悪しき因習・思想をどうにかしない事にはどうにもならないと思う(笑)。
※2…戦前の競馬界で女性騎手が誕生したが、その時には業界内で「女性(騎手)の存在は風紀を乱す」という反対運動が展開、その結果日本競馬会(JRA=日本中央競馬会の前身)が「騎手は男性に限る」と定めた為(無論今はそんな規則はない)、その女性騎手は一度もレースに出ることなく引退させられている。これと同様の「事件」は1960年代にアメリカでも起きたようである。
※3…1949年~1964年まで「女子競輪」が開催されていた。
※4…ファン投票によって出場選手が決まるSG競走。競走名はボートレースの生みの親と言われる「笹川良一(ささかわ りょういち)」の名前から。
SG競走は直近(およそ1年)の選考基準成績で出場選手が決まる(故に女性0になる事も珍しくない)が、笹川賞はファン投票ゆえに他のSGと比べて女性選手の選出される比率が高い。