DJカートン.mmix

それって早い話「金儲けのための忖度」って事では。

「重量」の話

ラグビーやバレーボールで日本による「ジャイアントキリング」が続いているので競馬(凱旋門賞)でも… とはいかなかった。

日本の馬が凱旋門賞でなかなか勝てない理由の1つに「馬場の違い」が挙げられる事は多い。同じ芝のクラシックディスタンス(2400m)のレースながらキングジョージ」や凱旋門賞より4秒も速い時計が出る馬場【*1】は最早完全な別物である。ましてや今年のような不良馬場は…

これも原因ではあると思うが、個人的には「普段背負わない負担重量で走る事」も勝てない理由ではないかと思う。ヨーロッパの競馬は負担重量が重い傾向で、4歳以上牡馬の負担重量は凱旋門賞で59.5kg、「キングジョージ」は133ポンド(≒60.327kg)、凱旋門賞の同日に行われるGⅠ「アベイドロンシャン賞【*2は芝直線1000m【*3】で行われる競走だが、このレースに至っては「62kg」である【*4】。

一方で現行の日本のGⅠ(障害除く)だと最高が58kg天皇賞など)、GⅡ以下の別定戦だともっと重い負担重量になる事もあるが、近年は59kgでの出走もほとんど見られない、というより59kgを背負うシチュエーション自体が少ない*5】。ブラストワンピースが今年の目黒記念で「59kg」で走ったが、同レースはハンデ戦なのでいつもそれくらいの負担重量になるとは限らない【*6】。

重い負担重量で力が出せない状況を業界用語で「カンカン泣き」なんて言うが【*7】、国内だと58kgでもカンカン泣きする馬がいるというから【*8】、いきなり60kgを背負わされたら(加えて日本にはない深い芝を走るのだから)よほど「馬力」のある馬でもないと実力を出し切れずに(今年のように)惨敗しても全然不思議ではないと思う。ちなみにアメリカや香港、ドバイのGⅠは牡馬で126ポンド(≒57.153kg)前後のレースが多い(日本の負担重量とほとんど差がない)ので、日本調教馬の好走が多いのも不思議ではない(…と思う)。

 

その負担重量というと、先週の日本の競馬で「公表された負担重量で騎乗できなかった騎手が30日の騎乗停止処分」というハプニング(?)があった。格闘技だと「体重超過で失格(王座はく奪とか)」という話はよく耳にするが、競馬は「指定の負担重量より重くてもアウト【*9】」である事は案外知られていないかも知れない(例えばボートレースやその他モータースポーツだと「最低重量」をいくら超過してもペナルティはない。もっとも重けりゃ重い分だけレースで不利になるだけだけど)。これは競馬の「公正」に関わる部分なのでたとえ500g【*10】でもダメなものはダメである【*11】。

ちなみに競馬場の調整ルーム(騎手が前泊し、外部との接触を遮断する場所)には「世界最高レベルの技術が投入されたサウナ」があってそこで思いっきり体重を落とす事ができる(初めて来日した外国人騎手が一様に驚くという)そうだが、それでも限界はあるので【*12体重超過は「普段の自己管理がなってない」と関係者からの評価がガタ落ち必至であろう。

 

ついでに(?)ボートレースでの話をすると、全てのレースにおいて(つまり一般競走でもSGでも)最低体重は「男子51kg、女子47kg」であり、不足分は「重量調整」といって専用の重りを身につけてレースに出る事になる。以前「蒲郡のピット見学をした時の記事」にも書いたが、「オレンジベスト」着用で500g、そのベストのポケットに500gの重り(ゴム製)を必要な数だけ入れて調整する。なお選手体重は「不足している選手(調整前)は500g単位で端数切捨て」「超過選手は100g未満の端数切捨て」で公表される。

当日の実況を見ているとボートレーサーは最低体重を超過している人が少なくない(特に男性に多いように思う)。とは言えやはりSGやGⅠで5kg以上超過している選手はまず見かけない(普段はオーバーしているが大きいレースに合わせて絞ってくる選手も少なくない)。

ではボートレースで超過した体重が与える影響はいかほどなのか? それを検証した動画があるが、そこでは「10kg超過する【*13】と1周で0.7秒ロスする」という結果だった。一般的に「1艇身≒0.15秒」なので4~5艇身の大差である。特に加速とターン(外側にふくれやすくなる)で大きな差がついていた。…という事は体重が重い選手のイン戦は信頼度が下がる(加速が鈍いとまくられるしターンが流れると差される)=高配当が出やすい…かも?(笑)

そういうわけでペナルティこそないが百害あって一利のない体重超過だが、一部のレース場ではこれを逆手に取った(?)企画レース「ヘビー級王決定戦」が行われている(直近だと10月14日~17日にびわこで行われる)。発祥地は宮島、斡旋されるのは最低体重を超過している選手(最低でも54kg)だけ、出場選手の中には60kgオーバーの選手もおり、初日の1Rは「メガトン特賞」としてもっとも体重の重い6選手が出場したり、優勝選手には「チャンピオンベルト」が贈呈されたり、そして過去にはゲストで蝶野正洋*14】が呼ばれたり、今度のびわこではレース開催中にスタンド内で「DDTプロレス」の試合が行われる、などとかなりマジな(?)、そして競馬では絶対に不可能な企画である。…レース場で将棋の公式戦、というのはさすがに無理かな?(イベントの席上対局は丸亀であったけど)

 

…自分はカートをやっていた時は自分の体重を気にかけていたが(自分の体重を把握していないとレース時に「最低重量不足で失格」になってしまう【*15】)、やめてからはほとんど気にかけていない。…当時と比べると10kgくらい増えたよなぁ(笑えない)。

*1:昨年ジャパンカップでの「2分20秒6」に対しキングジョージのレースレコードは2分24秒60、凱旋門賞は2分24秒69(シャンティイ競馬場での代替開催を含めても2分23秒61)。

*2:「アベイ」は修道院の事、かつて競馬場のすぐそばに修道院があった事に由来

*3:パリロンシャン競馬場の直線コースは『向正面を逆走』するレイアウトになっており、ゴールも「直線1000m専用のゴール」が向正面入り口にある。

*4:ちなみにこのレースは出走条件が「2歳以上」となっており、2歳馬と3歳(以上)馬が同時に出走できる世界的にも稀有なレースである(2歳馬の負担重量は54kg)。

*5:数年前まではGⅠ勝ち馬が別定GⅡに出走すると59kg(基準57kg+GⅠ勝ち馬2kg増)になったが、今は「基準が56kg」になったので58kgまでにしかならない。

*6:一応自分が知る限りではかのコスモバルク札幌日経オープン(芝2600m)に62kgで出走(2着)、という例があるが…

*7:「カンカン」は業界用語で負担重量の事、「看貫(貫、つまり重さを看る)」という当て字?が語源。

*8:以前のクラス分けだと「勝っても昇級しない」場合もあり、その時は「過去1ヶ月に同じクラスで勝利している馬はプラス1kg」というルールだったので条件馬でも58kg出走が時折あった。

*9:「アウト」と言っても規程では「超過重量が2キロ未満」だったら騎乗する事は可能(それを超えた場合は乗り替わり)。勿論過怠金や騎乗停止などのペナルティが科される。

*10:この場合の重量は「500g単位で端数切捨て」で扱われるので、例えば55.5kg以上56.0kg未満は全て「55.5kg」になる。

*11:以前は後検量で1kg以上増えていても失格(勝負服に雨がしみ込んで重くなった、などの特別な事由は除く)だったが、数年前に後検量で1kg以上増えているのは不問となった(1kg以上軽くなるのはダメ)。

*12:実際にサウナにこもり過ぎて「熱中症になって当日騎乗できず」なんてギャグ漫画みたいな事が何度か起きている。

*13:同じ選手が10kgの重りをボートに乗せて走らせた。

*14:過去にボートレースのCMに出演した事がある。その時の役名は「遅刻奉行」。

*15:各セッションの終了ごとに人間+マシンの総重量を検量して100gでも不足だと失格。「ガソリンの消費」とか「発汗による体重減少」などという言い訳は一切通用しない(後者は夏のレースだと時折起きる。自分も過去にそれで失格した事がある…)。