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それって早い話「金儲けのための忖度」って事では。

日本のカート業界の行く末

ヤマハが2027年をもってカート事業から撤退する、というニュースは自分にとって政治のニュースよりも関心があると言える。

 

かつては日本国内にヤマハ以外にもカート(ここではシャシーとエンジンに限定)に携わっていた企業がいくつかあった。今では会社ごとなくなってしまったブランドも多いが、「無限」や「トーハツ」など(カート事業からは撤退したが)今も存在する企業もある。

ヤマハのカートと言って真っ先に思い浮かぶのはKT100S」というエンジン。誕生は1976年というから実にほぼ半世紀ぶっちゃけ「日本のカート経験者でKT100Sを使った事がないと言う人はまずいない」というくらい日本のカートシーンにおける金字塔的な存在である(ちなみに自分はそれに当てはまらない稀有な存在だったり)。

初登場以降いくつかの別モデル(後述)も出たが、基本的なスペックは登場時からほとんど変わってはいない【*1】。そもそもこのKT100Sは「入門用カテゴリー」のエンジンなので大きなマイナーチェンジ(≒性能向上)をしては「最新のエンジンを持ってる奴でないと勝てない」という状況になってしまうのだが。そして入門用カテゴリーという事で「エンジンの改造は一切禁止(たまに改造可能のクラスもあったが)」「非純正パーツの使用禁止(ガスケット1枚でも社外品の使用はアウト。エンジンの封印のために社外品のナットに変更するのは可能)徹底したイコールコンディション化が図られている。…ちなみに排気量は「100ccを超えない範囲」まで拡張できる【*2ので、ギリギリまで削って(シリンダーのボーリングをして)ちょっとでもパワーを稼ごうと考える人もたまにいた【*3】。

ちなみにKT100Sの派生(?)商品には

・KT100SC…リコイルスターターとクラッチ装備で押し掛け不要

・KT100J…ジュニアクラス向けにKT100Sのパワーを抑えたエンジン(こちらもクラッチ付き)

・KT100FP…シリンダーヘッドなどの仕様変更でパワーアップ(もちろんレースは別のクラス)

・KT100SP…FPを更にパワーアップさせたもの。一説には「PV50【*4】に勝つため」に開発されたとか(実際2つのエンジンはほぼ同じタイムで走れる)

・KT100SEC…セルモーターによるスターターを装備

…他にもあったかも【*5】。

 

参入当初はカートのシャシーも作っていた(20世紀末くらいに海外メーカーのOEMを導入している)が、ある意味エンジン以上にヤマハの功績と言えるのが「SLタイヤ」エンジンやシャシーだけでなく、タイヤに関してもローコストかつイコールコンディションとするためにタイヤーメーカー(当時はブリヂストンダンロップ)に働きかけて「耐久性を重視したタイヤ」を制作。その初代の「SL83タイヤ」今でも入門カテゴリーの指定タイヤとして親しまれている(使い方にもよるが1セット1年くらい持つ)。その後SLタイヤにはグリップを高めた「SL86」とレインタイヤ「SL94」が登場し、そのアップデート版が不定期に登場している。確か晴雨兼用のオールウェザータイヤ「SL98」というのもあったはず(数字はいずれもその規格が導入された年)。ちなみに「SL」というのは蒸気機関車ではなく(笑)「スポーツ&レジャー」の略で、ヤマハがカートの裾野を広げる(要はローコスト&イコールコンディションでカートを楽しんでもらう)ために作った運営団「SLKC(現在はSLO)」から取られている。海外のカートタイヤでもこれに倣ったのか耐久性を重視したタイヤの商品名に「SL」が使われる事もある。

 

…今後カート業界(の底辺層)はどうなるのだろう、という不安が大きい。もっともトヨタが新たにカート業界にも参入しようというから安心して(?)カートから撤退しようという事なのかも知れないヤマハトヨタグループのようなものだしきっとそうに違いない)が、自動車メーカーだからカートのエンジンが作れる、とも限らないように思う(カートのエンジンはKT100Sでも最大15000rpmくらい、違法改造?すればもっと回せるので)。もっともトヨタは「世界選手権に殴り込みをかける」つもりではないようなのでぶっちゃけ「KT100Sに近いスペック」のものができれば問題ないヤマハから人やノウハウを得る事だってできる)のだろうけど。

その「トヨタのカート」がどういうものになるのかはよく分からないが、「安価に楽しめる(これまでの4分の1のコストで、と謳ってはいる)」をモットーとしてもあまりに消耗品(ガソリンとかはどうしようもないが)が多いと何だかんだ言ってユーザーの負担は大きいし、逆に「ほとんど壊れない」マシンだと「カート取扱店が悲鳴を上げる*6のでバランスは非常に難しい。…まぁそれでもトヨタが参入を考えたという事はこの国もようやく「呪い」から解放されようとしている、という風に考えるとしよう。

*1:カートエンジンはCIK(国際カート委員会、ちょくちょく名称が変わっている組織なので今もこの名前なのか自信がない…)またはJAF(カート競技も統括している)の公認が必要なので大抵のエンジンは公認(3年)の切れる時期に合わせてモデルチェンジする事が多いが、KT100Sはモデルチェンジなしで公認の更新をしている。

*2:出荷時のボア×ストロークは52mm×46mm、厳密な排気量は97.69ccなので、計算上KT100Sはボアを52.61mmまで広げる事が可能。カートエンジンは使っているうちにシリンダー壁が摩耗してボアが広がる(メンテ時にオーバーサイズのピストンに入れ替える。勿論KT100Sでもこれ自体は違法改造ではない。純正ではないピストンを使ったら100%アウトだけど)のでそれを見越してボアに多少余裕を持たせている。

*3:これに関してはレース終了後の車検で排気量検査を行うので、「レース走行でのシリンダー摩耗で排気量100ccを超えてしまった」という場合でも失格になる。KT100Sのピストンは0.05mm単位のラインナップなので理論上は52.60mmのピストンを…と行きたいが、エンジンの仕様(ピストンとシリンダーの隙間)の都合上ほぼ不可能なので実際に使用できる最大のピストン径は52.55mmになる。

*4:イタリアのPCR社が出していたエンジン。KT100Sとほぼ同価格ながらパワーははるかに上回る。後に水冷仕様になった「PV50W」もリリースされている。

*5:「KT100AZ」というエンジンもあったが、ロータリーバルブエンジン(MAZDAのお家芸?の「ロータリーエンジン」ではない)で完全に別物と言えるのでここでは数に含めなかった。

*6:以前日本に輸入されていたオーストラリア製のカートは「あまりに頑丈すぎてパーツが売れない」という経営者の嘆きがあったのを覚えている。