囲碁界で「9歳のプロ棋士が誕生」というニュース。国内最年少な上に「世界最年少」らしい。…システムが大きく違う将棋界(将棋界は「四段でプロ」だが囲碁界は「初段でプロ」)と比べるのはあまり意味がないでしょう。
…このニュースを見た時に思い浮かんだのがタイトルの言葉。これだけだと意味がさっぱり分からない(というか読んだ人の8割くらいは鞄のブランドの「COACH」を想像しそうである)が、森下卓九段によると「韓国の囲碁界について述べた言葉」らしい【*1】。
分かりやすく(?)言うなら、韓国の囲碁界では「『プレイヤー』としてのピークは20代まで」⇒30代になったら第一線を退いて次世代の「コーチ」になるべき、という考え方のようである。ここで言う「第一線」というのは主に国際棋戦についての事らしいが【*2】、韓国(と中国)の囲碁界はここに賭ける意気込みが半端ではなく(国を挙げて英才教育を行っている)、その上「国際棋戦で優勝した人は徴兵を免除される」らしいので参戦する棋士の意気込みも半端じゃない(ほとんど殺気立っている)とか。
最近はいろいろな業界で「ピークの若年化」が進んでいるように思う。業界によっては「30代は完全に出涸らし」というような話も聞く(主にe-スポーツ?)。…人生のピークを20歳前後で迎えたら「残りの4分の3」をどうするのだろう、と思う。中には上手くやっていく人もいるだろうが【*3】、一方で「破滅」する(あるいはそれに近い状態になる)人も少なくない(所謂「子役タレント」のその後を見れば分かるのではないか)と思う。
若くして業績を残す人というのは物心ついた頃から「その業界」しか知らずに生きてきたので往々にして「世間知らず」な事が多い、というのは今更言う事でもない。ただ、世間知らずで済むならいいが最近は「モラルが欠如している」人が多いように見受けられる。おそらくは教育する側が結果を残す事(でもたらされる「名誉」と「金」)ばかりを重視してモラルの類を軽視してきた「ツケ」なのだろうが、ピークをより若年化させようとしたらモラルを育む時間が「物理的・理論的に」なくなる、というのはちょっと考えれば誰でもわかる。
しかも日本棋院は数年前から「英才教育制度」みたいなもの(正式名称何だっけ?)を導入している(前述の「藤田怜央初段」や「仲邑菫二段」もこの制度出身)。…この制度(で誕生した棋士)は
日本棋院がモラルの教育を放棄した
のではないか? と思ってしまう。確かに国際棋戦では韓・中の後塵を拝しているというが【*4】、個人的には
モラルを捨ててまで張り合う事なのか?
と思ってしまう【*5】。
今のところ将棋界は「業界自体がモラルを放棄している」ところまでは行っていないようだが(対人の研究会を放棄して「COMで勉強」、という昨今の流行は正直「危ない」ようにも思えるが…)、もし将棋界まで同様の道をたどり出したらいよいよもって「将棋界にも絶望」してしまう。種目を問わず
「モラルを放棄してでもピークを若年化しないといけない業界」なんてのはそれこそ「なくてもいい商売」
だと思う。
*1:数年前のイベントで仰っていた(森下九段は囲碁界の関係者にも交友関係が広い)。「30代」の部分が微妙に違う(記憶違いをしている)可能性もあるが…
*2:なので30代でも国際棋戦で活躍した李昌鎬(イ・チャンホ)は関係者に言わせると「化け物」なんだとか…
*3:囲碁は将棋と比べると「政財界にパトロンが多い」ので、「上客」を見つけられればコーチとして食っていける確率は低くない、なんて話を聞いた記憶がある。
*4:あの井山裕太をもってしても「世界のトップ10」に及ばない、と言われる。…どうでもいいけど「今の井山裕太の肩書って何だっけ?」と思う。かつては「今の羽生善治の肩書って何だっけ?」と思う人が(将棋界にも)少なくなかったが…
*5:なんでも韓・中では「結果を出せなかったら海に飛び込んで死ね」とまで言われるらしい(本当に飛び込んだ人がいるのかは知らない)。…そんな事を言う人(国)が年少の棋士にモラルを教育しているようにはとても思えない。