…に行ってきた。文中敬称略で。
そもそも「北海道と落語」というのは縁があるのかないのかよく分からない、と思っている人は少なくないと思う。東京や大阪、名古屋(大須演芸場)のように「定席」があるわけでもないし、それこそ「落語=笑点」というイメージで一生を終える人(※1)も結構な数がいそう。
実際は明治4年(!)に「席亭山下」という札幌第1号の寄席が生まれ、明治25年頃からは「開新亭」「松新亭」「札幌亭」「金沢亭」「丸市亭」「南亭」と次々と寄席が生まれ、今風に言えば「落語ブーム」が札幌には沸き起こっていたという。
現在はいずれも現存しないが、この事を知った上方の桂枝光(かつら しこう)が2005年5月に「さっぽろ市民寄席 平成開新亭」を立ち上げ、小屋(定席を行う建物)こそ持たないものの市内のホールなどで定期的に公演を行い今日に至っている。
「…北海道くんだりに大した噺家は来ないだろう」と高を括っている人もいそうだが(※2)、これまでの根多帳(公式サイトで見れます)を見ると桂文枝(桂枝光の兄弟子に当たる)、桂文珍、桂米團治、桂春団治、桂ざこば、桂南光、桂雀三郎、月亭八方、月亭方正(=山崎邦正)、江戸落語からも柳亭市馬、柳家権太楼、柳家さん喬、柳家喬太郎、三遊亭円楽、春風亭昇太、三遊亭好楽、林家正蔵…(芸名はこれを書いている時点のもの、全て「当代」)とそうそうたる名前が出演している。四代目圓歌も「歌之助」時代に登場している。
なので決して北海道と落語は縁遠いものではないのである。ちなみに平成開新亭の寄席は「エルプラザ札幌」で行われる事が多いが、基本的に平日の夕方からなので彩棋会と日時が被ることはない(…一緒だったらどうなのよ、と言われたらそれまで)。
そんなわけでこの日の公演はキャパ700席の道新ホールが満席。ちなみに道新ホールは道新ビルの8階にあるため、行きも帰りも2基のエレベーターで少しずつ観客を運ぶ、という非常に面倒な事をさせられる。
以前も少し触れたが、4代目の襲名は先代の「遺言」で、一門の弟子や落語協会会長の柳亭市馬などにも「のすけ(襲名前の『歌之助』)に跡を継がせるから」と協力を仰いでいた。その甲斐もあって襲名は(某名跡とは正反対に)スムーズに行われた。
この日の演者と演目は以下の通り。
三遊亭天歌…やかん
桃月庵白酒…真田小蔵
柳家花緑…親子酒
中入り
襲名披露口上
三遊亭歌武蔵…支度部屋外伝
三遊亭圓歌…母のアンカ
「支度部屋外伝」は角界の四方山話を笑いを交えて解き明かす、元力士(※3)である三遊亭歌武蔵ならではの噺。所謂「時事ネタ」のようなものなので、演じる時期によって内容は大きく変わる。場合によっては公の場では言えないようなネタも出てくる(※4)。
「母のアンカ」は自身の少年期のエピソードをまとめた「自伝落語」で4代目圓歌の代表作の一つと言える。襲名披露興行の初日(3月21日、鈴本演芸場)に演じたのもこれである。他にも「B型人間」「爆笑龍馬伝」などの自作が有名なので新作のイメージが強いが古典落語も演じる(「日本の話芸」で「替わり目」を演じた)。
柳家花緑に新しい肩書が増えた(この日ここにいた人でないと意味が分からない)この日の披露興行は盛況のうちに幕を閉じた。…ただ前述のように会場は8階なので700人がいっぺんに帰ろうとすると下に降りるエレベーター2基(1台の定員は15人くらい)は大渋滞する(下手すりゃ十分以上待たされる)に決まっている。そのため階段を使って降りた人も多数。今回の公演に不満があるとしたらこれだろう。…ま、道新ホールの立地条件だから仕方ないと言えば仕方ないのだが。
…話は大きく変わるが(一応「北海道繋がり」はあるけど)、その道新(北海道新聞)を読んでいたら「早ければ来春(つまり2020年の春)に『北海道研修会』を開設できるように準備を進めている」という記事が目に入った。
気合の入った将棋ファンだったら御存知だとは思うが、将棋界における研修会とは「将棋を通じて健全な少年少女の育成を目指すための機関、また、女流棋士養成機関」の事であり、ここでの成績によって奨励会への編入や入会試験の一次試験免除(かの藤井聡太も東海研修会でB1クラスに昇級した事により奨励会の一次試験が免除されている)、女流棋士になる事ができる。なお一部報道等で「奨励会の下部組織」と書かれている事もあるが厳密に言うと「少し違う」(※5)。
道新に「将棋は作法や礼節も学ぶことができる。将棋ブームの今こそ、関東以北に研修会がない状況を解消したい」という森下九段の(常務理事としての)コメントが載っていたから、というわけではないが(笑)、北海道にもこういう機関、言い換えるなら「地盤」ができるのはいい事だと思う。「作法や礼節はネット将棋やAIでの勉強だけでは決して手に入らない(身につかない)」、という意味でも。
ちなみに研修会のクラスはS・A1・A2・~・F2までの13段階あり(「級」ではない)、一番下のF2で大体アマ二段くらいの棋力だそうである。…彼等と自分が平手で対局したら多分5割は勝てないだろうな(笑)。
※1…この日の柳家花緑の枕をそのまま引用しました(笑)。
※2…今でも内地には「北海道は日本だと思っていない」人はいるんだよなぁ、と思う。
高座に上がった時の第一声は大抵「ただ今の協議について説明いたします」。和服を着た姿が相撲の親方のようにも見える事を利用したネタ。これに続いて自己紹介で「芸名を三遊亭歌武蔵、本名を松井秀喜と申します」というのも定番(両者が似ている、と姉弟子──2代目立花家橘之助、当時は三遊亭小円歌──に言われたのを受けて生まれたネタ。「本当の本名」は若森正英という)。
※4…同演目が収録されたCDではところどころが「パン!」という音(表向き?は「張り手の稽古をしている音」となっている)で伏せられている。