DJカートン.mmix

他人に完璧を要求するのは質の悪い潔癖症のようなものだ。

寄席「文枝・枝光兄弟会」

文中敬称略。

9月3日はタイトルのイベント(正式名称は「第八回大札幌落語会 其の一 文枝・枝光兄弟会」)に行ってきた。

 

六代・桂文枝*1】については今更説明の必要はないでしょう(笑)。桂枝光(かつら しこう)は同じ3代目桂小文枝(5代目桂文枝)門下の弟弟子(なので「兄弟会」)で、以前も書いたが札幌で「平成開新亭」を主宰している。この日の公演もその「平成開新亭」の一席である。

東京や大阪の「定席」と違って1日限りの公演、しかも平日なので18時30分開場・18時45分開演(…と宣伝していながら実際は各5分ほど遅れている)。320人入るホールの8割以上は入っていた。

 

この日の演目は以下の通り。文枝の2席はいずれも新作落語

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坂田三吉物語」は勿論あの坂田三吉*2】。文枝の295作目(この時点で最新)の新作落語で、「河内音頭」とコラボさせた、そして噺の中で実際に河内音頭坂田三吉について語っている(普通の落語と「河内音頭」が交互に出てくる)。勿論出来事を淡々と述べるのではなく、ところどころに笑いを入れた語り口である。高座には落語のための固定マイク以外に歌の為のコードレスマイクも用意されていたが、2回ほどマイクと扇子を間違えて手に取って歌おうとしたのは多分ウッカリでしょう(笑)。

なおデフォルトの状態で「さかたさんきち」と入力すると予測変換では「阪田三吉」だけが出てくる。しかし世間では「坂田三吉」という表記もよく見られる(日本将棋連盟のサイトなどでは「阪田三吉」となっている)。…一体どちらが正しいのだろう、という疑問が生ずるが、ぶっちゃけ言うと「どちらも正解」。というのは生まれた時の戸籍上の姓は「坂田」であった(そのため戯曲「王将」などの創作物では「坂田」となっているものが多い)が、1916年の戸籍編纂時に戸籍上の姓が「阪田」に変わっている(理由は不明)。敢えて言うなら物語などに登場する「存命時の人物」としては坂田、「歴史上の人物」として語る時は阪田、と書くのが正確だろうか。

 

「(桂)三語」は六代文枝門下の噺家。演じた落語「二人癖」は以前もブログで書いたが噺の中に「詰将棋が出てくる」。絶対に詰まない「都裸玉(初形に5五玉があるだけ)」の詰将棋を解かせて「つまらん」を言わせようとする噺だが、そもそも都裸玉を詰ますには持駒はどれだけ必要なのだろう。どちらにせよこの日は将棋が出てくる落語が2席も演じられるという稀有な高座であった。

桂枝光の噺を聞いたのはこの日が初めて。文枝一門の噺家なので大阪(主に天満天神繁昌亭)でも高座を務めているが、自分は聞く機会がなかった。

特徴を一言で言うなら「時事ネタを多く織り交ぜる」「オーバーアクション」「高座で(扇子や小拍子以外の)小道具を使う」だろうか。小道具は膝隠しの裏に置かれていて、この日使われたのは「『○』が書かれた札」「醤油の小瓶」「バブルガン(シャボン玉を連続で発生させるおもちゃ)」「紙吹雪」。「茶の湯」ではお茶を泡立たないので泡を立てようとご隠居がムクの皮【*3】を鍋の中に突っ込んで部屋中泡だらけになる、というシーンがあるが(そもそも「抹茶」を使っていないので泡が立つはずがない)、その時に「高座の上で実際にシャボン玉が噴射された」。…シャボン玉は割れてすぐに乾くから大した問題ではないが、ばら撒かれた紙吹雪は高座の上に残るので、噺が終わった後に桂三語が1つ残らず片づけている姿に会場からは大きな拍手が(笑)。この日の彼は落語以外にも枝光がばら撒いた紙吹雪を片付けたり、「坂田三吉物語」で河内音頭の「太鼓」をステージの上で叩いたり歌や掛け声もこなしたり、勿論普通の前座の役目(座布団を裏返す、見台と膝隠しの出し入れなど、この日はたまたま「めくり」はなかった)もあるのでいつも以上に忙しかったであろう。

「家族の絆」も新作落語。題目のとおり家族の絆をテーマとした噺だが、あらすじを説明すると長くなりそうなので割愛。「一文笛」は以前もここで紹介した事がある、桂米朝が作った噺。この噺を知らない、あるいは聴いても何の感銘も覚えないマスコミとは付き合わない方がいい。

坂田三吉物語」で語られたのは幼少期(丁稚奉公に出ていた)~かつて大会の決勝戦で敗れた関根金次郎とのリベンジマッチ(大正8年)のところで「ちょうど時間となりました」と講談のような終わり方に(実際その時点で40分近く経過していて実際の時刻は21時20分くらい)。ただ、史実では阪田vs関根の最後の対局は大正7年となっているようで辻褄が合わない。いろいろ調べてみたところ、この落語のあらすじは阪田三吉をモデルとした映画「王将」(いくつか制作されているうちの「最も新しいもの」、と言っても制作は1973年)を基にしているようである。

 

…先月は江戸落語を聴いたわけだが、やはり自分は「上方落語の方が性に合っている」のかも知れない。無論江戸落語がつまらんと言いたいわけではなく単純に好みの問題。

*1:上方落語で「六代目」というともっぱら「六代目笑福亭松鶴」を指すので、それに憚って「六代・桂文枝」(目をつけない)としているそうだ。

*2:厳密に言うと名前は「三吉」ではなく「三𠮷」(上が「士」ではなく「土」)なのだが、「𠮷」が常用漢字ではない(普通の変換ソフトでは出てこない)ので「三吉」と表記される事がもっぱらである。…じゃあ「𠮷」はどうやって入力したかって?

「IMEパッド」→「Unicode(追加漢字面)」→「コードU+20BB7」

にあります。

*3:「無患子(むくろじ)」の皮。「椋(むく、ムクノキ)」とは別の植物。…以下蛇足だが滝川鯉昇はこの落語を演じる時にムクの皮の代わりに「ママレモン」を使う。