世の中の人間の半分は「名前に騙される」というらしいが…
次の局面。☗1二銀はパッと見「COMのバグか?」とか思ってしまう一手である。
…先に断っておきますが、上の図を含む今回の記事は日本将棋連盟サイト内の「棋譜利用のガイドライン」に基づいて書くものとします。その中の王座戦(上の図も該当)の棋譜利用ガイドラインについて簡単にまとめると、
・(対局中の盤面図1枚を「1図」と数えて)3図までは商用/非商用、また(対局日からの)期間に関わらず申し込み不要で利用可能
・上記の場合を除き、対局日から3ヶ月以内は商用/非商用問わず利用不可。3ヶ月経過後は非商用の場合は無償で使用可、商用の場合は要申込。なお、動画配信サイトでの「棋譜の利用」はいかなる場合でも(収益性が全くない事が証明されても)「商用」と見なされる
・「指し手順の文字情報」は(盤面図の使用、不使用に関係なく)計10手まで
…と、こんな感じ。詳しくは連盟のサイトを参照。
上の図の☗1二銀という手、本当にパッと見は意味が全く分からない、それこそ一昔前だったら「COMのバグ」と言って納得されるような手だが、この手を指したのはCOMではない。何せ公式戦で現れた手だから。
ともかくも奇想天外な(今年度の升田幸三賞に推したい)一手であるが、この手を見た時によぎった事は
もしこの手を指したのが藤井聡太だったら「また」ネット上の「俄か」が騒ぎ立てたんだろうな…
…だが、残念ながら(?)この手を指したのは藤井聡太ではなく、「俄か」だったら名前すら知らない可能性もある(失礼)野月浩貴八段である(9月7日、王座戦一次予選)。そのせいなのか、「12銀」で検索をかけてもこの対局の記事は何も引っ掛からない(例えば「41銀」なんかは単語予測の時点でウザいくらい引っ掛かる)。
…やっぱり「名前に騙される」奴はいるんだな、と改めて思った瞬間。それこそ相掛かりで「5手目に☗2四歩」や「6手目に☖8六歩」という手【*1】も「藤井聡太が指したら最善手に見える」、というか「最善手だと騙される」人もかなりの数がいそうな気がしてしまう【*2】。そもそもこの2手(特に5手目☗2四歩)が成立するのなら相掛かりはとっくの昔に結論が出ている、それどころか昨今のCOM研究と合わせて「将棋は先手必勝のゲーム」という結論にまで到達しているかも知れない。…ちなみにこれが香落ちの対局だと初手(便宜上先後を逆にして表記します)から☗2六歩☖8四歩☗2五歩☖8五歩に「☗2四歩」、以下☖同歩☗同飛☖8六歩☗同歩☖8七歩に「☗9九角!」と引く余地があるので先手(上手)大優勢、という嵌め手を以前どこかで読んだ事がある。…あ、この手もノーカウントで(笑)。
…話を元に戻そう。当の本人は対局後に(ツイッターで)
他の手も考えましたが、脳裏から▲1二銀が離れない…
と仰っている。…自分のような素人には☗1二銀はおろか「他の手」からして何も浮かばないのだけど(笑)。確かに言われてみれば「香車を持っていたら☗8六香が滅茶苦茶厳しい」とわかるが、だからと言って☗1二銀という手を指してまで無理矢理取りに行くのは… と思ってしまう。それこそ昭和の時代だったら「こんな手を指したら破門される」という感じの手である。
実戦は図から☖5九角と攻め合いに、以下☗1一銀成☖7七銀☗同桂☖同桂成に☗8六香が実現。☖6五飛と逃げるスペースはあったが☗6六銀と飛車を召し取る事に成功。以下10数手で先手の勝ち。…よし、「指し手順の文字情報」を10手以内で収めたぞ(笑)。
…かく言う自分も「同じ札幌市出身」の棋士が指した手という事でこの手に対し贔屓の目が入っている可能性もあるが、将棋の手というのは極端に言えば「全ての手の善悪を理論的に説明(結論づける事が)できる」ので、どんなに贔屓しようが貶そうがこの手の「理論的評価」は同じである。勿論誰が指しても「理論的評価」は変わらない。個人的にはこの☗1二銀はこの局面における「悪くても次善手」くらいの手だと思うが、自分ごときではその真相(?)に辿り着ける気はしない(笑)。