DJカートン.mmix

それって早い話「金儲けのための忖度」って事では。

痛ましい事故

3連休中に北海道森町で起きたカートの事故。巻き込まれた2歳の男の子がその翌日に亡くなられた。しかも名前が「成那」と書いて「セナ」と言うのだから最初は質の悪いジョークかと思ったものである。…何はともあれお悔やみ申し上げますとしか言いようがない。

 

ニュースでは「ゴーカート」という表現をしているが、ニュースで見た限り使われていた車両は「ゴーカートとは似て非なる乗り物」としか言いようがない。レンタルカート向けの設計とはいえフレームワークとかはレースで使用されるものと基本はほぼ同じであり(2020年に行われた「日本初の公道カートレース」に使われたものと同じもの)、目線の高さもほぼ同じ=ゴーカートよりはかなり低い。ニュースによっては「40km/hくらい出ていた」と報道されていたが、あのタイプのカートは誇張無しで40km/hくらいは普通に出せる(それどころか出そうと思えば60~70km/hくらいまで出せる)

 

それだけスピードが出る乗り物なので事故が起きる可能性は常にあるわけだが、今回の事故は運転していた本人ではなく「観客」が巻き込まれている。

ニュース単体だと事故の内容が断片的にしか判断できないので、いくつかの(ネット)ニュースの内容をつなぎ合わせる事で何とか事故の全容らしきものが見えてくる。

 

今回の事故が起きた仮設コースは概ね下図のような感じだという。右回りのコースでグレーが本コース、水色がピットレーン(黄色は後述)。図が手抜きなのはスルーする事(笑)。

ニュースによるとカートを運転していた女の子は既定の周回を終えてピットに戻ろうとして減速せずに赤矢印のラインでコースアウトし、3人の子供と接触した、という事のようである。

「経験者の観点」から言うなら今回の事故が起きた理由は主に次の2つ。

・主催者の安全対策不足

・コースレイアウト(厳密にはピットレーンの場所)

 

1つ目の「安全対策不足」について、ニュースによると本コースはウレタン製(だと思う)のブロックで仕切られていたが、ピットレーンのあたりは「コーンとポールのみが置かれていた」とある。…それを読んだ自分は「こっちの方が質の悪い冗談のようだ」と思った。40km/hで走るカートの前ではコーンとポールなんて「何も置いていない」のと同じである。

カートというのはミスでコントロールを失いそのままコースアウト、という事はいくらでも起きる。まして事故が起きた時は路面が完全なドライではなかったというから猶更である。モータースポーツに関わる人だったらコースを見て「1周のうち最もスピードが出る(=事故が起きやすい)のはどこか」というのは瞬時に判断できる。大抵の場合は「長い直線の終点付近」であり、そういう場所には衝撃を吸収できる障壁(タイヤバリアとか)を置いたり、そもそも観客を立ち入らせないといった措置は全国どこのサーキットでもやっている事である。少なくともこのコースにおいて事故が起きた地点というのは「(ピットレーンの有無に関係なく)最も危険度の高いエリア」であり、そこに「コーンとポールのみを置いて」観客を入れていた、というのだから…

関係者は「ピットレーンだから減速するものと思っていた」らしいが、未経験者(○リオカートでランカー、なんてのは経験のうちに入らない)にそういう常識(?)は通用しない。遊園地のゴーカートでも「終点でブレーキを全く踏まずに前の車に追突する」人は少なくないし、アクセルが何かに引っかかって戻らなくなる(踏みっぱなしと同じ状態になる。ゴーカートでも「下駄やサンダルでの運転を断る」事があるのはそれも理由の1つ)、ブレーキが利かなくなる、というトラブル【*1】が起きる可能性もある。そういった可能性も考慮するのが本当の意味での「安全対策」であろう。特に仮設コースの場合はある程度の高さの障壁(ある程度の高さがないと「カートが壁を乗り越えてしまう」事もあるので障壁の役を成さない)でコース全周を囲い、加えて「コース周辺(最低でも壁から2mくらい)は立入(観覧)禁止とする」くらいの対策は必要だと思う。

 

2つ目の「コースレイアウト」について。今回のコースは「長い直線(つまりスピードが出ている状態)から直線的にピットレーンに進入」という形状になっている。

…敷地の関係上そういうレイアウトにしないといけない場合もある。実際そういうコースはどこにでもある【*2】。ただそういう場合でも万一のコースアウトに備えた措置は取られているものである。少なくともそのすぐ先に観覧スペースがあるなんてのは論外。しかし今回のコースレイアウトはその「論外」が採用されていた。

…自分がコース設計担当だったらピットレーンは反対側(つまり図の黄色のライン)に設けていたと思う。こちら側だったら連続コーナーの直後で少なくとも「全速で突っ込まれる」可能性は遥かに低いので今回のような事故が起きる可能性も低かったと思われる。勿論こちらの場合でも「コースアウトの可能性」は0にならないので「バリアを設ける」「コース近辺は立入禁止」といった措置は必要である。

 

カートを「運営(≒提供)」していたという新千歳モーターランドは確か1993年の開業、つまり「30年くらいカートに関わってきた」会社*3】だから今書いたような理屈は分かっているだろう、とも思ったものだが… もっともイベント全体を運営していたのはそれとは別のトヨタ系のディーラー「函館地区オールトヨタクルマファンFES」というイベント内の1部門、という扱い)らしいので「そっちが予算をケチった(安全対策を軽視した)」結果という嫌らしい見方もできるかも知れない。

 

…今回の事故のせいで「また」この国がモータースポーツ嫌いにならなければいいのだが、なんて心配(?)をしてしまう。

*1:トラブルでなくても雨だと制動距離は長くなり、コースアウトやブレーキ時にスピンする可能性は飛躍的に高まるので初心者や子供にとっては大変危険な状況である。

*2:F1開催歴のあるサーキットだとマレーシアにある「セパンサーキット」とか。今回の件で取材を受けていた「南幌リバーサイドカートランド」のコースも同様のレイアウトになっている。

*3:創設にはホンダの助力が大きかったと言い、ホンダF1のマネージングディレクターを務めた山本雅史氏も携わっていたらしい。