DJカートン.mmix

「とても満足した」という理由で他人にそれを薦める割合は60%くらいに過ぎないそうだ。

業界を「動かさせる」棋士

将棋の公式戦は6月から東西間を移動する対局が解禁される。それによって俄然注目を集めたのは一時は絶望的と見られていた藤井聡太七段の史上最年少タイトル挑戦」の可能性が復活した事。…意地悪く言うなら「依怙贔屓以上のもの」とも解釈できる決定ではある。

…言うなれば藤井聡太が業界を「動かさせた【*1】」、という事になるが、これまでの将棋界の歴史を紐解くと彼以外にもそういう棋士がいなかったわけでもない。その最たる例は升田幸三実力制第4代名人だと思う。

ご存じの方も多いだろうが、「王将戦」の初期(第14期まで)には「三番手直り」と言って七番勝負で3勝の差がついた時点で次期の王将位が確定し、残りの対局を「半香(香落ちと平手を1局ずつ指す)」で指す、という指し込み制度があった*2】。

王将戦(というよりこの制度)は一説には升田幸三「名人に香車を引いて・・・」というフレーズを実現させるため毎日新聞社が考えた、とも言われている【*3】。ただ、その当事者(?)の升田幸三は連盟に対し三番手直りは採用しないでほしいと強く訴えたというので、言うまでもなく升田幸三が進んでこの制度を推したわけではない。その象徴とも言えるのがかの「陣屋事件」であろう【*4】。他にも棋聖戦」は升田幸三にタイトルを取らせるために「1日制」「年2回」のタイトル戦(その時点で既存のタイトル戦は全て2日制だった)として創設された、とも言われている。つまり升田幸三という棋士がいなかったら「王将戦」と「棋聖戦」は創設されなかった、という極論もあり得たのである【*5】。

他にはマチュアのプロ編入制度は実質瀬川晶司六段(当時は瀬川晶司「アマ」)が業界を「動かさせた」結果とも言えるし(こちらは本人もある程度「動いた」が)、将棋界以外でもまれに「とある一個人」がきっかけで作られたルールがあったりする*6】。つまり藤井聡太もそういった「業界を動かさせた人」のリストに名前を連ねた、と言ってもいいだろう。…そして今後も何らかの形で「業界を動かさせる」可能性はかなり高いだろうな、と思う。無論そういった「お膳立て」を生かせるかは本人次第なのだが。

 

…以下おまけ(?)。

JRAは6月いっぱいまで「無観客開催」を継続する(ウインズも引き続き休業、なので投票はネットだけ)、と発表があった。同じ公営競技でも「既に観客の入場を再開した【*7】」ボートレースとはえらい違いだが、単純に比較していいものなのかは微妙(ボートレースだってGⅡ以上は当面の間無観客開催とする、と言っているわけだし)。なお感染拡大防止策として採られていた「平地条件クラスのブロック制限」「土曜日の騎手移動(土日で別の競馬場で騎乗)」などは5月いっぱいで終了する。…「認定調整ルーム」は調整ルームという(ぶっちゃけ日本にしかない)システムを見直すいい機会になるのかと思ったが、そういう事にはならないようだ。

*1:自分からは特別なアクションを起こさなくても「周りの人間が勝手に動いて(妙な言い方をすると「忖度」して)くれる」、という意味。…日本語は難しい(笑)。

*2:そのため初期の王将戦は「途中で番勝負の決着がついても必ず7局指す」事になっていた(途中から「指し込みになった場合、香落ちだけ指す」と変わった)。また実際には起こらなかったが、「3連勝4連敗」の場合先に3連勝した時点で「勝者(次の王将位)」となるため、「七番勝負の勝者が負け越している」という事態もあり得た。

*3:実際のところこの説は「後世のこじつけ」の可能性が高そう。あるいは「名人戦の契約を朝日新聞に奪われた腹いせ」、つまり「名人の権威を失墜させるため」に指し込み制度を盛り込んだ、という見方もある。

*4:旅館の態度に腹を立てて対局拒否した、というのが有名な理由だが、実際は「名人に対して香車を引く」対局を指したくなかったから、と考えられる。ちなみに三番手直りは時の木村義雄名人の「名人が指し込まれる事などあり得ない」という言葉で最終決定されたとも言われているが、その木村義雄名人が指し込まれる事になったわけだから凄まじい皮肉である。

*5:前者は陣屋事件の4年後に「(大山康晴)名人に香車を引いて」の対局が実現した(しかも勝った)。後者は結局「升田幸三棋聖」は誕生しなかった。

*6:確か「JRAへの移籍を希望した地方所属の騎手」の1次試験免除(一定の成績を修めた場合は1次試験が免除される、というルール、今は廃止)は通称「アンカツルール」と呼ばれたはず。他にもMLBの「二刀流」に関するルールは大谷翔平がきっかけで生まれたんじゃなかったっけ?(MLBは全く興味がないのでうろ覚えですらありませんが)

*7:5月28日の時点で営業再開を決めたレース場は(既に開催中の大村を含めて)8場ある(再開予定日はサイトを参照)。場外(BTS)に関しては九州の大半と新潟、阿賀野新潟県)、黒石(青森県)などが既に再開済。