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それって早い話「金儲けのための忖度」って事では。

「さばく」人を「裁く」

オリンピックとかワールドカップとか、大きい大会が行われると必ずと言っていいほど話題になる単語が「誤審」。現在進行形で開催中のパリオリンピックでも「待ってました」と言わんばかりに誤審が話題になっている。

何故大きい大会では誤審をやたらと見かけるのか? という話はそれこそそれで本が1冊書けそうな話なので、ここでは別のアングルからツッコんでみようと思う。

 

誤審は時に対象選手の人生を大きく狂わせる。草野球とかでの誤審とは影響力に天と地以上の差がある。つまり大きな勝負を裁くのは本来「命懸け」であり、大相撲の立行司のように脇差を差して*1「差し違えたら腹を切る」くらいの覚悟(実際には差し違えても切腹まではしないけど)が必要である(断言)。

それだけの覚悟を持って審判に臨んだとしてもそこは人間なので誤審してしまう事はある。ましてや今は録画による確認が可能なので誤審はたちまち明るみになってしまう。

…いや、誤審をしてしまうのが悪いとは言わない。たった今も書いたように「審判も人間」なのでどんな名審判でも誤審は起こりうる事である。それこそAIを導入したところで前提条件が間違っていたら(例えば数日前に導入された新ルールをAIが「知らなかった」といった理由で)誤審は起きてしまう。問題なのは「誤審した事を認めない事」そして「誤審を訂正できるシステムがない事」である。

一部競技だと「リクエスト」「チャレンジ」などといった抗議行為が認められているが、どういうわけかオリンピックの競技でそれができる競技というのがほとんどないような気がする。なので「それは絶対違うだろ」というような誤審があったとしてもそれが訂正される可能性はほとんどなく、そんな状況なので「審判不要論」まで一部では騒がれているようである。審判行為は外で見ている人に委ねて「審判」はその判定を観客にわかりやすく示すだけでいいんだ、みたいな。…まぁわからん理屈ではない。そもそも大相撲がそういうシステムだから。

…どういう事か補足しておくと、大相撲で勝負の決定権があるのは土俵下の勝負審判であり、行司に決定権はない(物言いの時も意見を述べる事はできるが評決には加われない)行司が上げる軍配はいわば「仮決定」のようなもので、その判定に問題がないと判断されれば「仮決定」がそのまま本決定になるし、問題がある(かも)となったら「物言い」がついて協議される(どう見ても同体だろ、という場合でも行司はどちらかに軍配を上げないといけないので大変な商売だよなぁ、と思う)。なので大相撲の審判システムは古臭いようでいて「実は最先端で合理的」なのかも知れない。

 

業界内では「審判は神」「審判が誤審を認めるのは恥(あるいは悪)」みたいな考えが浸透しているのかも知れない。…一介のゲームの話ならネタで済ます事も可能だが【*2】、オリンピックとかワールドカップとかは「結果がその後の人生を大きく左右する」事が多く、それを重大な誤審で「あるべき未来」を捻じ曲げられる、しかもそれをやっておいて悪びれる様子が全くない(よりによって今回の審判団はあの一件を「笑いながら協議していた」という)なんてのは彼らの中に「審判(≒神)は選手(≒人)の人生を捻じ曲げても罪に問われない」的な思想があるからではないか。…そんな奴が裁いていたらそりゃ誤審が多くて当然だよな、と思う。

 

そっちの業界の話をよく知らないので伝聞になるが、柔道で誤審が多く見られる(話題になる)のは「国際大会の審判には柔道を全然知らない(選手経験がほとんどない)人も珍しくない」、それこそ「選手として三段あったら上出来」というようなレベルで、それ以下だった(下手すりゃ選手経験ほぼ0という)人がオリンピックや世界選手権を裁く、なんて事は普通にあるらしい。…ボードゲームとかならともかく、コンマ何秒という短い時間内の両選手の「さばき」──それも相撲のように「どちらの手が先についた」「どちらの足が先に出た」みたいな単純なジャッジばかりではない──を「素人に毛の生えた程度の人」が裁いている、というのだからそりゃ誤審も多くなるわ、となる。

こういう事が起きると選手は感情を押し殺して(そういう事があってもなお負の感情が全くない、なんて事はあり得ない)「弱い自分が悪い」なんて言う事が多い、そしてそれを美談と祭り上げる人が多いが、自分はこういう話が美談だとは思わない、というかああいう言葉を美談だと祭り上げる輩が気持ち悪くて仕方ない。…ついでに言うと選手自身も無理に感情を押し殺さず「アホな審判どもにぐうの音も出させぬような一本を取れない自分が悪い」くらい言う人が1人くらいはいた方がいいんじゃないか、と思う(「弱い自分が悪い」を翻訳?するとおおよそこんな感じになりそうだし)。…他のスポーツでも「いつもと違う前提条件(会場とか天候とか)」に備える事は普通にあるわけだし、だったら「審判がアホ」という前提の準備もあってしかるべきだろう。…具体的にどういう準備をすればいいのかは分からないけど。

 

…そうやって考えると将棋や囲碁というのはそういった誤審がまず起きないから平和だなぁと思う。…過去に千日手成立がスルーされた」という事はあった2種類の手順で「同一局面4回目」が出現したために対局者や関係者が気づかないまま差し継がれて決着した)けど。

…結局は「何故誤審が多いのか」という話になってしまった(笑)。…別に「その話はしない」とは言っていないのだけど。

*1:あれは単なる飾りだろう、と思っている人が多いが、立行司が纏っているのは銃刀法で正式に登録された本物の短刀である。

*2:その究極は「燃えろ!プロ野球」における「ファウルを打った次の投球はどのようなコースでもストライクと判定される(敬遠で投げるようなウェストボールを見逃してもストライク判定される)」ではなかろうか。…このゲームは「バントでホームラン」が俎上に載る事が多いが、こちらの方がよっぽど致命的なバグである(何しろ1ストライク以降でファウルを打つとその打者を100%三振に打ち取る事ができてしまうので)。