「対戦相手に恵まれている」なんて声も聞こえてくるかもしれないが(※1)、中にはほぼ敗勢の将棋を逆転した対局や、何気ない局面で相手が「自分から最悪の選択肢を選んでくれた(ように見える)」対局もあり、個人的には対戦相手云々の以前に「藤井四段に『何か』が乗り移っている」のではないか、と思う。
新記録がかかる対局は6月26日に行われる竜王戦決勝トーナメント、対戦相手は増田康宏四段。「東の増田、西の藤井」の公式戦初対局(※2)がこのような舞台だとは実に出来過ぎている。
奨励会時代から将来を嘱望されていたと言われる両者だが、ここで一つ大胆不敵な予想と言うか予言をしてしまおうと思う。
この対局の結果によって将来訪れるのが「増藤時代」か「藤井時代」かが決まる
表向き(一般のファンとかマスコミとか)には「連勝新記録のかかった対局」としか映らないであろうが、自分はこの対局が今後の将棋界(の勢力図)を大きく左右する一番、言い換えるなら両者の今後の実績が拮抗するか大差になるか、の分水嶺になる、と見ている。
過去には大山(康晴十五世名人)-升田(幸三実力制第四代名人)や羽生(善治三冠)-谷川(浩司九段)のようにライバルと目されながらその後の実績(タイトル獲得数など)に大差を付けられてしまった組み合わせがある。そしてその結果には「分水嶺となった対局(番勝負)がある」、つまりその対局の結果で苦手意識みたいなものを植え付けられた(故にその後の実績に大差をつけられた)、と言われる事がある。前者だったらかの有名な「高野山の決戦(頓死で名人挑戦を逃す)」、後者だったら1993年の棋聖戦(羽生との番勝負で3連続敗退し「苦手意識を持った」らしい)だろうか。
これも過去を気にしてしまう人間が戦う競技だからこそ生まれるドラマだと言えなくもないが(※3)、増田四段にしてみれば「生まれて初めて平手で負けた年下(本人談)」に連敗はしたくないだろうし、しかも将棋界の新記録がかかる一番、もし負けたら生涯「引き立て役」みたいに見られてしまうかも知れない。そしてその手の苦手意識(またはそれに類するもの)は本人にその気がなくてもどこか潜在意識の奥底に居座り続け(その人のプレイに影響を与え続け)、結果として「後の実績に大差となって表れる」。そういう話は将棋界に限らず「勝負の世界」、特にわずかの差が大きな差になるトップレベルの戦いではいくらでも聞く話である。
そしてその分水嶺となった出来事(必ずしも対局・試合とは限らないかも知れないが)というのはほとんどの場合において結果が出た後で「あの試合がターニングポイントだったよな」といった感じで振り返るだけであり、歴史の転換点が現在・あるいは近い未来である、と分かる人は少ない。そしてその転換点を自分の好きなタイミングに定められる人というのはもっと少ない。
…途中から訳のわからない話になってしまったが(笑)、もし自分がこれを直接言える立場だったら
「今度の対局で負けたら『増田時代は一生来ない』と思え」
と激励(?)するかも知れない。…もしかしたら既に森下九段が言っているかも知れないし、その「結果」は2年や3年とかで分かるものでもない。そもそも予言が全くの的外れ(ある意味「杞憂」)で終わる可能性だってある(笑)。ただ前述の前例はどちらも年下の棋士が抜きん出ている、というジンクス(?)があるのが増田派の自分には気になるんだよなぁ…(笑)
ちなみに今回の記事は渡辺竜王が自身のブログで「29連勝目は竜王戦決勝トーナメントになりそう」と書いた頃(つまり6月上旬)に「28連勝するという前提で」書いている(あらかた仕上がった後に発表された対局日程などの細かいところを加筆修正している)。
…つまり今日までに28連勝未満で連勝がが止まっていたら今回の記事(の草稿)はおじゃんになっていたのである(笑)。同じライバルの公式戦初手合でも連勝が続いているのと終わっているのとではやはり「重み」に違いが出るだろうから。
※2…わざわざ書くまでもない事だがAmebaTVの企画「炎の七番勝負」は非公式戦。他には藤井「三段」の時(昇段した直後)に研究会で1局指した(増田四段が勝った)という(本文中の「本人談」のリンク先でつづられている&1月の両国イベントで本人が話しておられた)。
※3…つまり「過去」を気にしない(というか「存在しない?」)COMの戦いににこの手のドラマが生まれる事はない、という事になる。つまらんなぁ…(笑)