DJカートン.mmix

それって早い話「金儲けのための忖度」って事では。

「不文律」という言葉

先日たまたま見ていたクイズ番組で現役の東大生が「不文律」という漢字を書けずに悩んでいる(結局書けずに時間切れ)、というシーンがあった。しかも2人も。
その時は

「こんな簡単な漢字も書けないなんてお前ら本当に東大生か?」

とかテレビに向かって毒づいたものだが(笑)、時間をおいて改めて考えてみると彼ら──というより現代の若者──は不文律という漢字を書く以前に「不文律という言葉を知らない」のではないか、と思う。実際解答する時、正解を示された時の表情は「度忘れした(していた)」という表情ではなかった。

このブログを読んでいる方だったら多分御存知でしょうが「不文律」というのは簡単に言えば「文章で表現されていない決まり事」。「不文法」という場合もある。反対語は「成文律」(または「成文法」)。
自分が知る限りではほとんどの業界に何らかの(昔からの)不文律があるように思うが、「今のご時世ならではの不文律」と言えるのは
「プロ棋士が対局中(休憩時間も含む)に電子機器(要は将棋ソフト)を使用してはならない」
だと思う。
昨今の将棋ソフトの進化については今更語るまでもないが、それを対局中に(勿論相手の見ていないところでコッソリと)使用する、言うなればカンニング」に関する規則というのは(これを書いている時点では)厳密には存在しない(※1)。一応(2014年10月から正式施行された)対局規定には「電子機器の管理」という項目があるが、

公式戦、非公式戦問わず、対局に際しての電子機器の取り扱いについては各自が管理する。ただし対局開始から終局まで、休憩時間も例外ではなく原則として電源をオフにする。この規定に違反があった場合は、役員会が違反の内容を調査し裁定することとする

…文中には「各自が管理する」「原則として電源をオフにする」としか書かれていない。しかも「原則として」という一語が入っているのは使おうと思えば使えなくもない、言い換えるなら「ルールに抜け道がある」ようなものである。しかし自分の知る限りプロ棋士でその「抜け道」を使った人、使おうとした人はいない。つまりこの件に関しては「不文律」が存在する、と言ってもいいと思う。
しかし最近のネット上ではこの事に言及した書き込み、例えば「隠れてコッソリ使ったら(そしてバレたら)どうなるの?」とか、酷いものだと「規則でハッキリとダメと言っていないのだから使ってもいいですよね?」などと宣う輩までいたりする。
後者の人に対してはネットを使う前に「『侮辱』という言葉の意味を辞書で調べてそれをノートに100回書き写す事」を強く推奨したいところだがそれはひとまず置いておいて(※2)、この手の書き込みから見える事は

彼等の中には
「成文化されたルールで禁止されている事はNG」または「成文化されていない事はやってもいい」
という、言わば「0か1か」という判断基準しか存在しない

さすがにここまで極端ではないとは思うが(※3)、少なくとも不文律というものの存在を理解(尊重)している人だったら(その事に疑問に思う事はあっても)こんな発言はしないと思う。もっとも不文律と言うのは物理的・理論的な事よりも「調和」「矜持」「伝統」といった精神的なものを守るために定められている事が多いので(※4)、その業界の外にいる人間には理解し難いのも無理はないのかも知れないけど…

何か話がずれたような気もするが(笑)、要は「今の世代の人間は『0か1か』という判断基準しか持ち合わせていない」… これって以前にも同じような事を書いた「コンピュータ過剰適応型テクノストレス(症候群)」というやつである。もう一度簡単に説明すると、

長い時間コンピュータに接する事でその人の思考法が「0か1か」という「コンピュータ的思考」に染まってしまう

今の人類(特に若い世代)はそれこそほぼ24時間365日コンピュータに接している=この症状に侵される可能性が極めて高い、と言える。そしてこの「コンピュータ的思考」で考えると不文律というのは「明確な文章で定められていない」ので「ルールではない」、という事になってしまう。

…いささかこじつけたような感もあるが、こうやって理論立てて(?)考えると東大生が「不文律」という漢字を書けない理由にも合点がいく、かも知れない。もっとも理由がわかってもそれが「不文律という言葉(漢字)を知らなくても(書けなくても)いい」という理由にはならないが。


※1…ちなみに今から30年以上前には「外部から情報を得られないように」との理由で「対局中は休憩時間も含めて将棋会館から外出してはいけない(食事は出前、持ち込み、または当時はあった将棋会館地下の食堂で)こちらはハッキリと成文化された規則があった(けど「気分転換のための外出もままならぬとは」と棋士に不評で1年で終わった)、という話は以前書いたっけ? と思ったら文中の「電子機器の管理」について触れた記事で書いていました(笑)。

※2…今のご時世だとそれ以前にそういう輩は「侮辱」が読めないかも知れない、とか考えてしまうんだよなぁ…

※3…自分はそっちの事は詳しくないが、例えばオンラインゲームにもプレイヤー同士の何らかの不文律は存在すると思われる。例えば「降参したプレイヤーにはとどめをささない」とか言ったようなものが。

※4…表向きには「伝統を守るため」としておきながら実際は「古参者の既得権を守るため」の不文律、なんてのはそこかしこで聞かれる話である(それこそ永田町にはその手の不文律が3桁はありそうだ…)。なので不文律というのは「成文化すると格好悪い決め事」「存在が外部に知れると非難の対象になる決め事」が多いように思う。「プロ棋士が対局中に電子機器(将棋ソフト)を使用してはならない」もこうして文章(成文律)にすると正直「格好悪い」と自分でも思うので。