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それって早い話「金儲けのための忖度」って事では。

変化する将棋界

第74期名人戦佐藤天彦八段が4勝1敗で奪取、実力制では13人目となる名人に就位、という形で幕が下りた。そしてその翌日からは早速次の第75期順位戦がスタート。
中継を見ていた人ならもう御存知だろうが、今期から順位戦のシステムがいくつか変わっている。
・B級2組以下は持ち時間がストップウォッチ計測から「チェスクロック方式」になっている
・関東に関しては夕食休憩までは1人で2対局の記録を取る

後出しじゃんけん」で申し訳ないが、後者に関しては「以前からそういう案(可能性)が検討されていた」事は知っていた…話の出所? そりゃあ「あのイベント」ですよ(笑)。ただその場でも前者の「順位戦の計時をチェスクロック方式にする」という話はなかった。
「以前からそういう案(可能性)が検討されていた」理由は名人戦棋譜中継にもあるように「関東での記録係の不足」。話によると「相当深刻」らしい(その理由の一端として「奨励会員の大学進学率の高さ」があるそうだ)。その一方で関西では「記録係をやりたい(けど対局数が少ないので取れない)」という奨励会員で溢れ返っているというので非常に難しい問題だと思う。通常棋士の遠征は序列上位に合わせる(対局者が東西に分かれている場合、序列が下の棋士が遠征して対局する)事が多いが、もしかしたら今後順位戦(B2以下)は「関西優先(対局者のどちらかが関西所属だったら序列問わず関西で行う)」になる、という事もあるかも知れない。
前者に関しては「主催者の要望」と「記録係への配慮」との事。主催者の要望についてはともかく、関東では1人で2対局の記録を取るため、ストップウォッチ計測では負担が大き過ぎる(「時計の押し間違い」をする可能性が極めて高い)であろうから仕方ないと思う。
さて、持ち時間がチェスクロック方式になった事で何がどう変わるのか。自分がすぐに感じたのが終盤での「時間残し」ができない、という事。気合の入った将棋ファンなら説明の必要もないだろうが、ストップウォッチ計測だと「考慮時間の秒単位は切り捨て」である。つまり自分の指し手を58秒とかで着手すれば消費時間は「0分」である。もし対局開始から終局までの指し手を全て1分未満で指せば「消費時間0分」という事も理論的にありうる(※1)。
…で、「時間残し」というのはこのようなからくり(?)を利用して終盤に1分(ないし数分)を残した状態で指し続け、「ここぞ」という場面でその残した時間を使って読みを入れる、という時間の使い方(NHK杯でも「考慮時間の最後の1分を残す」、という同様の時間の使い方は時折見受けられる)。「秒単位で消費時間が計時される」チェスクロック方式でこの方法は使えない、というのはお分かりいただけると思う。
ここから先は想像になるが(※2)、これがあるのとないのとでは物理的な考慮時間もさることながら心理的に大きな差があると思う。ましてや順位戦(持ち時間6時間)だと持ち時間を使い切るのは(双方が均等に使ったとして)23時過ぎ、肉体的にも精神的にも疲労はピークのはずである。そんな状況下でいざという時のための時間が残っているのといないのとでは雲泥の差(つまり「土壇場で悪手が出る確率が跳ね上がる」)だと思う(※3)。無論相手も同じ条件ではあるが、この「小さいようで大きい差」は順位戦の戦い方に何らかの影響を与えるのかも知れない。

最後に、第2期叡王戦羽生善治九段がエントリーしている叡王戦は「段位表記」なのでタイトル保持者(永世称号有資格者)でもこういう表記にならざるを得ない(※4)。…それはともかく、渡辺明竜王(今回も不参加)が言うように「タイトルホルダーは参加するにせよしないにせよメリットデメリットの両方がある」と思うが、一体何をどう考えて今回のエントリーとなったのか、は我々凡人が想像できるような話ではないと思うのでここでは触れない。とりあえず「森下九段と同じ予選ブロック」というのは勘弁してほしかった、とだけ書いておこう(笑)。


※1…それを実際にやった(しかも勝った)棋士がいる。「誰が」「どういう理由で」やったのか、は結構有名な話なので割愛します。

※2…想像で書くのはマチュアの将棋ではこの「時間残し」(のメリット)を実感できる機会がほとんどないため。たとえば「天下一将棋会」の持ち時間システムはこれが当てはまるが(持ち時間5分→1手10秒、ただし1回30秒の考慮時間が3回)、自分はこのゲーム自体が今どうなっているのか、というところからよく分からない(一応サービスは今も続いているらしいが…)。…あえて言うなら将棋倶楽部24の「早指2」はこれに近いと言えなくもないが、どちらにしても1手あたりの考慮時間が短いのでプロ棋戦のそれとは一概には比較しづらい。

※3…そう考えると人間vsCOMの対局でチェスクロック方式の持ち時間を採用している、というのも「人間にとって不利な条件」と言える(今となっては「どうでもいい条件」と考える人が多そうだが…)。

※4…いつだったか、神吉宏充七段が何かのイベントで「今は七段、引退後に八段、死んで九段! これで(段位の上では)羽生に並べる!」と言って会場の笑いを取っていたっけ。