「数年前からエージェント制度の強調により、騎手の腕など関係なく成績に偏りが生じて地方や外国人ジョッキー主体の流れが強くなりました。そうすると一生懸命に調教を頑張っている連中の活躍の場もなくなり、乗るチャンスも減り昔のようにピリピリとして切磋琢磨な勝負の世界には程遠い環境になっているのが事実であります。エージェントによりリーディングの順番が年頭から決まっているような世界。何が面白いのか?」(藤田騎手のコメントより引用)
…言いたい事はよくわかるつもり。もし自分がJRAの騎手だったら同じような事を考えたと思う。行動(電撃引退)に移すかはわからないけど(笑)。おそらく藤田騎手は
「自分の運命を自分以外の人間に委ねる(委ねられる)」事に耐えられない
タイプの人間なのだと思う。…自分(DJカートン)と同じように。
「エージェント」とは他のスポーツ業界では頻繁に聞かれる言葉で、要は契約などについて本人の代わりに交渉を担当する言わば「代理人」。競馬(JRA)だと正式には「騎乗依頼仲介者」と言い、騎手本人に代わって騎乗する馬を集める(営業活動をする)人の事。日本では2006年に正式導入された制度だが、「非公式エージェント」はその20年以上前、当時現役騎手だった岡部幸雄氏が既に海外では主流だったこの制度を参考にし、懇意のトラックマン(トレセンなどでの取材・新聞の予想などをする人)にエージェント業務を依頼した事で誕生している。
ビジネスの世界では
「(ビジネスにおける)欧米でのトレンドは10年遅れで日本に入ってくる」
なんて言われており、日本で「代理人」という制度(言葉)に注目が集まったのは1992年くらい(当時ヤクルトスワローズの古田敦也捕手が契約更改に際し代理人を立てようとした)だったと思うが、アメリカ(大リーグ)ではその10年かそれ以上前には代理人制度が定着していたようである。おそらく競馬も同様だろう。
選手(騎手)にしてみれば営業などといった「本業(競技)とは別の脳みそを使うこと」に時間を割く必要がなくなるわけで、またエージェントのおかげで騎手のダブルブッキングが激減したというメリットもある(それが原因でJRAもエージェントを「渋々」公認せざるを得なくなった、とも言われる)。しかしその一方で「特定の騎手に有力馬が集まり過ぎる」という傾向が一段と強くなり、今では「リーディングジョッキーは『騎手の腕』ではなく『エージェントの手腕』で決まる」なんて言われる時代になりつつある、いや既になっている。一時期は無敵とも言えた武豊騎手が近年冴えないのは年齢による衰えよりもこのエージェント制度のせいによるものだ、という複数の指摘があるそうだ。
自分もこの手の「しがらみ」を知るまでは競馬が好きだったが、それ(以前も書いた「男尊女卑な傾向」も含む)を知って以降は競馬の見方が大きく変わったと思う。少なくとも「競馬=スポーツ」という考えは綺麗サッパリ消えてなくなった。確かに競馬は多額の金が動く上に1頭の馬に対して「騎手」「調教師」「馬主」「生産牧場」と多くの人間が絡むので様々な「しがらみ」が起きるのは仕方ない(武豊騎手と某馬主のように「些細な口論が原因で絶縁」という事も珍しくない)としても、それらは競馬を見るほう(馬券を買うほう)にしてみれば「どうでもいい話」である。しかし今はその「しがらみ」の中に「エージェント」が加わり、しかもそれがレースの結果(馬券の結果)までも左右する時代になってしまっている(※1)。…まともな人間(?)なら「そんな世界の何が面白いのか?」と思っても不思議ではない。
そう考えると自分が新たにのめりこんだボートレースは健全(?)だと思う。何せ「選手」しかいないので余計な「しがらみ」が起きない=「切磋琢磨な勝負の世界」になっている(と思う)ので。
…JRAで「1騎手あたりの騎乗回数制限」を設けたらどうだろう、なんてことを突然思いついた。たとえば
・4日開催(2場所×土日)…1週末で15回まで
・6日開催(3場所×土日、または2場所×祝日を絡めた3日)…1週末で20回まで
みたいな感じで。もちろんやったらやったで別の問題が発生する可能性もある(そういう話が出た時点で真っ先に社台グループが反発してくる=その案を潰しに来る気もする)が、少なくとも今と比べたら「一生懸命に調教を頑張っている連中の活躍の場」は増えると思う。少なくとも今のままでは「人(次世代を担うべき騎手)が育たない」と思う。やっぱり騎手にとっては(騎手以外のスポーツ選手でも)実戦こそ最大の勉強だろうから。
…偉そうな事を書いたが、正直今の自分にはJRAがどうなろうと「どうでもいい話」なんだよなぁ…(笑)
※1…他にも近年は「トレセン牧場」と言って、東西のトレセン(美浦トレーニングセンター、栗東トレーニングセンター)以外(基本的に近郊)の「調教施設の整った牧場」で馬を仕上げてレースに臨む、というパターンが増えている。そういう場合、トレセンの直前調教(取材陣が見ているところ)では軽いウォーミングアップ程度で終わらせる事が多い(のでそこで出たタイムだけでは本当の仕上がり具合が分からない)。当然ながら(?)トレセン牧場の「施設」や「人」の質によっても仕上がり具合(ひいてはレースの結果)は左右されるわけで、それを知っているといないとでは予想に際し大きなハンデになるのは想像に難くない。