DJカートン.mmix

他人に完璧を要求するのは質の悪い潔癖症のようなものだ。

Ponanzaへの評価(電王戦FINALの感想を含む)

「…Ponanza? 強いよね。…(以下略)」

…ではなく(笑)、Ponanzaという将棋プログラムは今後将棋というゲーム(あるいは将棋界)においてどういう評価をされるのか、という話。
電王戦ではプロ棋士相手に3戦3勝、先日の第25回コンピュータ将棋選手権では全勝優勝(2次予選で通信トラブルによる時間切れ負けを喫しているが内容だけならPonanza勝ちだと言われる)、プロ棋士からも「怪物」なんて言われる事がある(最初にそう言ったのはFINALで対戦した村山七段だったと思う)。「…よくもまぁそんなソフトが作れたものだ」と呆れが混じった感心をしてしまう。
その強さからか、開発者である山本氏の「羽生名人と対局したい」という願望も注目?を浴びた(最低条件であった「将棋電王トーナメント優勝」を果たせずその時は断念されたが、その野望は今でも持っているに違いない)。その願望に対し自分は「将棋界に対するテロ行為」なんて断罪(?)したっけ(苦笑)。
ともあれそんな将棋ソフトだから、今やPonanzaというソフトは将棋というゲーム(あるいは将棋界)において軽からぬ地位を確立していると言っても過言ではない。…では具体的にどんな地位なのだろう?
例えば升田幸三実力制第4代名人は「将棋の寿命を300年縮めた男」と言われることがある。自分は以前ここでそれに倣って(?)

画期的な将棋ソフト(プログラム)「Bonanza」を開発した保木邦仁氏は将来「将棋の寿命を3000年縮めた男」と評されるかも知れない。

なんて事を書いたのだが、今改めて考えてみるとこの表現は少し意味がズレている気がする。
『将棋の寿命』というのは具体的には何か、もっとわかりやすく(?)言うなら『将棋の寿命が尽きる』とはどういう状態なのかと考えてみる。「寿命」をどう捉えるかは人それぞれだと思うが自分は

『将棋の寿命が尽きる時』『将棋の結論(先手必勝・後手必勝・引き分けのいずれか)が解明された時』

ではないか、と考える。これは将棋に限らずこの地球上に存在する「二人零和有限確定完全情報ゲーム(※1)」全てに当てはまると思う。このロジックを用いるなら例えばどうぶつしょうぎ」は(研究の結果「後手必勝」という結論が出ているので)既にゲームとしての寿命が尽きている、という事になる。
升田幸三実力制第4代名人は画期的な新手・新定跡の開発によって「(将棋というゲームの奥深さを考えると微々たる物かも知れないが)将棋というゲームの解明に近づいた」、つまり「将棋というゲームの寿命を縮めた」と言える。一方Bonanzaがやった事と言うのは一言で言うなら「将棋ソフトのブレイクスルー(飛躍的な進歩)」であるが、それがそのまま「将棋というゲームの解明につながるか」と言われたら必ずしもそうではないと思う。
最近ではCOMが指した事で「○○新手」と呼ばれる手が(プロの将棋でも)ちょくちょく出現しているが、結局のところそれはそれまで人間(基本的にプロ棋士のみがやっていた事(新手の研究)をCOMでもできるようになった、という話(=升田幸三実力制第4代名人の業績と比べたら微々たる物)でしかない。もしこれがCOMの能力を総動員して「一つの戦法の完全な結論」を証明した、ともなればこれは間違いなく「将棋(の一定跡)を解明した」=「将棋の寿命を縮めた」と言えるだろう。つまり特定(主に「短期決着必至」や「ハメ手まがい」)の戦法について「ルール上ありうる全ての指し手」に対する正解手COMに突き止めさせるのである。調べる手数が半端でないので現在のCOMスペックを持ってしても相当の日数を要するかも知れないが(※2)、COMは人間と違って不眠不休で何日でも何ヶ月でも読み続けられるのだから「時間」や「疲労」を考慮する必要は全くない、という利点がある(電気代の心配は必要だろうが…)。
一つの例として横歩取り△4五角戦法(※3)を挙げてみる。今でも時折見かける「ハメ手の代表格」みたいな戦法で、この戦法は「正確に指せば先手が有利という風に言われていてもその「正確に指す」のは言う簡単な話ではないし(※4)、あくまで先手有利であって先手必勝」と結論付けられた話は聞いた事がない(※5)。それをCOMの力で「ルール上ありうる全ての後手の指し手」に対する先手の正解手を示して「この戦法は(△4五角と打った時点で)先手必勝である事」(まさかとは思うがもしかしたら「実は後手必勝」あるいは「千日手」という結論になるかも知れないが…)を証明できたら…
もしそれができたとしたらその戦法に悩まされ続けたアマチュアにとってはこの上なく嬉しい話になるに違いない。もしかしたらそれをやった人は「升田幸三賞」をもらえるかも知れない(笑)。なので

将棋ソフトは電王戦などという妙なイベントなどではなくこういう事(局地的な戦法の解明)にこそ用いるべきだ

と思う(これに関しては一部のプロが導入している「気になる局面をCOMにかける」というのも含んでいる)。もっとも結論が出たとしてもそれをマスターできるかは全く別の問題なのだが…(苦笑)

…話が逸れたが、ではPonanzaはどうか。残念ながら(?)Ponanzaがこのような「将棋の寿命に関わる何か」をやった、という話は聞こえてこない。「Ponanza新手」と言われるものも出してはいるが、具体的にやったのは電王戦でプロ棋士を立て続けに連破した事羽生名人に挑戦状を叩きつけようとした事くらいである。
これらを総括して改めて将棋ソフトにキャッチコピー(?)をつけるとするなら

Bonanza…「将棋の寿命を3000年縮める可能性を提示したソフト」

Ponanza…「将棋界の寿命を300年縮めたソフト」

となるだろうか(開発者の名前は省略した)。前者はともかく後者は「我ながら上手いコピーだ」と自賛したくなる(笑)。もっとも「300年」という数字は升田幸三実力制第4代名人を評した言葉との対比のようなものなので本当に300年も縮んだのかはわからない。ただ少なくともプロ棋士を連破したという事実は少なからず「プロ棋士の存在意義」に疑問符を抱いた人を生み出した=少なくとも将棋界にとってはマイナスな話=寿命が縮んだ、事に間違いはない(と思われる)ので、要は「語呂が良ければいい」って事で(笑)。

…で、その「将棋界の寿命を縮める」きっかけとなったかもしれない電王戦。FINALが終わって1ヶ月が過ぎたのだが、正直なところ「そんな事もあったっけ?」というような印象しか残っていない(本当に鮮烈な印象が残っているなら10年前だろうとよく覚えているはずである)。そんなわけなので今更それについての感想を述べる気力がわかない(苦笑)し、仮にどうにかして言葉を振り絞ったとしても今更新しい見解が生まれるとも思えない。それに自分が考えていたほど「将棋界へのダメージ」はなかったような気もするので「そんな事もありましたよね」くらいの印象(感想)になってしまうのである。


※1…平たく言えば「ランダム要素」や「伏せられた情報」が一切なく、「理論上は『先手必勝・後手必勝・引き分け』のいずれかの結論が出せるゲーム」の事。

※2…そもそも今のCOMは不要と思われる部分の読みを省略する「枝刈り」が発達しているので、かえってこういう作業には向いていない、という可能性もあるかも知れない(苦笑)。

※3…以前携帯中継のコメントでこの戦法の事を「ツバメ返し」と書いていたものがあった。ただ、それがいつ・誰が書いたものかを覚えていないし(苦笑)、それ以降この戦法の事を「ツバメ返し」と言う人(書かれた記事)に会った事がない。見間違いではないはずなのだが…

※4…24でこの戦法を多用している「六段」前後の人を見たことがある(何て名前だったかなぁ…)。その人の棋譜を調べるとこのクラス(「高段」タブ内)でもこの戦法で5割近い勝率を残している。つまり「トップアマや奨励会クラスでもこの戦法に対し正確に指すのは難しい」、という事である。

※5…「羽生の頭脳」にはほぼ全ての変化とその対策が網羅されているというが、もしかしたらまだどこかに抜け道(「プロ目線では盲点になりやすい手順」)があるとも限らない。
別に羽生名人のあら探しをしているわけではないので念の為(笑)。