DJカートン.mmix

昨今流行っている「ジェンダーレス」とかいう言葉を使いたがる人は「差別」と「区別」の違いがわかっていないんじゃないか? と思う。

「淡々」から「情熱」へ

時間的にも金銭的にも都合がつかなかったので彩棋会(28日・札幌)、詰工房(29日・東京)への参加は断念。3週連続会合参加ともなれば
「いよいよ会合マニアへの道まっしぐらか?」
なんて言われそうだったが…(苦笑)

6月22日(香龍会当日)に放映された第64回NHK杯将棋トーナメント、森下卓九段vs広瀬章人八段戦ご本人も仰っているように森下九段は5年ぶり(24回目)の本戦出場
以前も書いたが前回出場時はB1所属(&日本シリーズ優勝)のため予選免除、しかしその直後にB2に落ちたため翌年から予選回りに(4年連続予選敗退)。
島九段の言葉を借りるなら「森下九段がB2にいる(NHK杯の予選を戦う必要がある)事自体が理解不能」となるのだが、こればかりは将棋界(順位戦及びNHK杯戦)のシステムだから仕方ない

あらかじめ断っておくと、自分は放送日(6月22日)の前に対局の結果を知っていた。正確には対局の結果だけ知っていた。
以前も書いたがテレビ棋戦の結果は収録日(=記録に残る対局日)の翌日に連盟HPの「今年度成績一覧」に計上されるので、該当する棋士(今回なら森下九段と広瀬八段)の「対局予定」と「今年度成績一覧」をチェックしていると「対局結果に名前がないのに両棋士に1勝と1敗が計上されている」瞬間があるそれ(5月20日に数字が増えた)を見て結果を知ったのである(なので放送日までは手番・戦形・総手数など勝敗以外の情報は何一つわからない)。もっとも、よほど(特定の棋士を)好きでない限りそんな事を毎日チェックしたりしないだろうが(笑)。
当然ながら放映日以前にこの手の情報をブログなどで公言する事はタブーである前期の銀河戦のように連盟HPでの「はぐらかそうとした表現」は仕方ないとしても、たまにこの手の情報を公開する(したがる)輩がいる
自分の情報収集力を誇示したい(評価されたい)つもりなのかも知れないが、残念ながら(?)そういう輩は世の中に『そういう風に評価してくれる人』はほとんどいない」という事に気づいていない事が多い。自分もこの前週の駿棋会で「一応結果は(前述の方法で)知っているけど」とは言ったが、結果そのものは勿論言っていない。

対局は広瀬八段の先手。このところ森下九段はテレビ棋戦では後手番の連続(放映された銀河戦本戦も3局全て後手番)である。
広瀬八段と言えば「振り穴王子」の異名を奉られている上に現在の将棋フォーカスで広瀬章人の最強”振り穴”マニュアル」という講座を受け持っているので、広瀬八段の振り飛車穴熊を期待した、という人は多いと思う(自分も少しした)。しかし▲7六歩△8四歩に対する3手目は▲6八銀という相矢倉指向の手一応理論上(?)は▲6八銀△3四歩▲6六歩△6二銀に▲6七銀~▲6八飛と振り飛車(~穴熊)にできなくもないが、左銀が▲6七銀に限定されてしまう(▲7八銀型の方がいい場合も多い)ので、後手が6手目に△3二金といった「飛車を振ってみろ」的な挑発でもして来ない限りは矢倉を目指すほうが普通である。
視聴者の期待を裏切った(?)広瀬八段だが、そういう意味では森下九段も負けて(?)いない。17手目▲7七銀までは相矢倉の新24手組(※1)に向かう手順だったが、次の△5三銀右が広瀬八段、解説の阿久津八段、そして視聴者の意表をついた
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どんな戦法を使おうとそれは指す人の自由だが、受けの棋風である(※2)森下九段の急戦矢倉に違和感を感じたファンは多いと思う。自分も何か意外な感じを受けたが、自分の場合森下九段が急戦矢倉を用いた事よりも用いた形の方に驚かされた
急戦矢倉と一口に言ってもその形はいろいろあるが、「矢倉中飛車」や「阿久津流急戦矢倉(※3)」など右金を6一に置いたまま駒組みを進めるものが多い例外的なものとして「米長流急戦矢倉」があるが、これは現在では対策が進んで後手苦しいとされている。
つまり△5二金は「急戦放棄宣言」とも取れる手で、先手もこれを確認してから▲7七銀とするのが定跡(※4)。…なのだが、そう思っていた矢先の△5三銀右。以下▲6七金右△6四歩▲2六歩△6二飛▲2五歩△6五歩と先に動く。
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矢倉の大家である森下九段が前述の急戦矢倉の常識に反する(?)手を指すのにはに驚かされた。
しかもこの形って最近どこかで見た(森下九段が指していた)ような気が…」したが、3日前に放送された銀河戦(対高橋道雄九段戦)でも同じ戦法(34手目まで手順も含めて同一局面)を用いている(CSを見れる環境がないのでこちらはサイトで棋譜を見ただけだが)。
これは「△6二飛戦法」と言って昔はよく指された戦法らしいが自分はよく知らなかった。似たような(今でも時折見かける)急戦矢倉の戦法に右四間飛車があるが、こちらは△5二金を保留して△6四歩~△6三銀~△5四銀(~△6二飛)と腰掛け銀に構えるので狙い(攻め方)が異なる。

NHK杯を毎週見ている方ならご存知と思うが、森下九段は今年から座右の銘を「淡々」から「情熱」に変えられたという。その最大のきっかけはおそらく電王戦であろうが、こういった「古い戦法の見直し」も情熱の成せる業、と言えるかも知れない(情熱がないとこのような「無駄に終わる可能性の高い」事をしようという気にはならないと思う)。
銀河戦では足早に雁木に組んで△3三角~△5一角~△7三角という「3手角」という戦法を用いたが、「消極的だった(NHK杯の感想戦にて)」という森下九段は居角のまま△7三桂とスピード重視… と思いきや先手の▲6八銀左(後手急戦に対する形の一つ)を見るや雁木に組んで△8一飛と一転してじっくりした将棋に。
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棋士も人間なので時に特徴的な癖・仕草を見せる事がある。森下九段だと「せり上がり」「返事」だろうか。
せり上がりは以前も書いたが「着手する駒を1段目に打ち付けた後目的地までスライドさせる手つき(を勝手に命名)」。返事というのは「森下九段、残り○分です(※5)」という記録係の呼びかけに対する「はい」という返事。
どちらも他の棋士はあまりやらない仕草なので、テレビを見ていて「珍しい癖だな」と思った人もいるかも知れない(前述のように森下九段の本戦出場は5年ぶりなので)。今回の放送で「せり上がり」は一度しか確認できなかったが(大盤を映している時に指された可能性はある)、返事はほぼ毎回行っていた(音声なので大盤を映していても聞こえる)。ただ同じ「はい」でもハッキリと返答する事もあれば、盤上没我のためか半分眠っているような感じの返答(ほとんど呻き声?)の時もあった。

結果論で言うとまだ中盤の入り口と言える下図の局面での次の一手が勝敗を分けたのかも知れない。
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本譜は考慮時間を使わずに▲8六同歩と取ったが、感想戦によると▲8六同角が優ったようである。▲8六同角には△6五歩(▲同歩には△4五歩)と調子よく攻められそうだが(それを直感的に嫌って▲同歩としたのかも知れない)、そこで▲7七角と戻ると次の手(先手の2筋突破は受からないのでそれに対抗する攻め)が難しい、との事。
本譜▲8六同歩には△8五歩と継ぎ歩、以下▲同歩に△9五歩▲8六角△9六歩▲9八歩と端を詰めて△6五歩と全面戦争へ。途中▲6一飛と王手角取りで飛車を降ろされた局面は一瞬驚くが、▲6六飛成と角を取っても△4四(4八)角と飛車の両取りと打って駒損はしない事、そしてそれ以上に△5一歩と手順に「金底の歩」を打てた事で攻めに専念できるようになったのが大きい
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以下緩み無く攻めて最後は先手玉を即詰みに討ち取って勝利。…誰だろうね、「逆立ちしても(森下九段は)広瀬八段には勝てない」なんて事を言っていたのは

2回戦は深浦康市九段との「同門対決」となったが、最後の対戦は2008年日本シリーズの決勝戦、これまでの対戦成績も森下九段の5勝2敗(※6)と、両者の実績を考えると意外に対局数が少ない
もっとも前述の日本シリーズの戦前インタビューで深浦九段は「羽生さんとの対局よりやりにくい」と仰っているので、「できるだけ少ないほうがいい対局」なのかも知れないが(笑)。


※1…昭和末期に登場し現在の主流である「飛車先の歩を突かずに駒組みを進める(飛先不突)」のが「新24手組」、それ以前の定跡であった早く(7手目)に▲2六歩を突く(24手目の時点で完全な先後同型になる)形が「旧24手組」。
現在では「旧」はほとんど見られないのでシンプルに「新」のほうを「24手組」と呼ぶ事が多い中、「新」「旧」という表現で2つを区別するのは他ならぬ森下卓九段である(2008年度の将棋講座にて)。

※2…関係者やファンからはそのように言われるが、
「攻防共に万全の態勢を築こうとするうちに相手に攻められる(ので受け将棋のように見られてしまう)」
という感じの森下六段(当時)の談話がある。

※3…△5二金と上がらずに△7四歩~△5三銀右~△5五歩と5筋の歩を交換する。
第21期竜王戦、あの「初代永世竜王決定戦」で渡辺明竜王(当時)が第6局・第7局と連採、新手を披露して竜王を防衛した事で一気に知名度が上がった(研究され始めた)。
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※4…△5二金の前に▲7七銀と上がると△6四歩~△6三銀~△5二飛と「矢倉中飛車」にされる可能性がある。一応この場合は7七の銀を6八に引いて受ける対策があるが、純粋に2手損してしまうので先手としてはいかにも勿体無い

※5…通常の(テレビ放送でない)対局では段位・肩書きではなく「○○先生、残り○分です」と「先生」という呼称を使うなのでNHK杯の収録時にいつもの癖(?)で「○○先生、残り○分です」と言ってしまう可能性もありそうなものだが、自分はそういう言い間違いを見たことはない。記録係(の奨励会員)の適応力は凄いな、と思う(笑)。

※6…自分の記憶違い(調査漏れ)があるかも知れないので御了承を。