DJカートン.mmix

それって早い話「金儲けのための忖度」って事では。

「電王戦の論評」の論評

第3回電王戦が始まってしまった。

自分は仕事終了後に携帯中継で結果を確認した。後で詰将棋おもちゃ箱などを経由して今回の対局を論評した記事をいくつか読んでみると
「コンピュータの大圧勝」「勝負になっていない」「早く羽生・渡辺を出せ」「もう人間は勝てない」
みたいな記事ばっかり。

…別にプロ棋士を贔屓しようか擁護しようとかいうわけではないが、こういう記事を読んでいると
「本当にそうかねぇ~」「こいつ本当に将棋というゲームをわかっているのか?」
などと思ってしまう。少なくともこの世は必ずしも「多数派=正論」ではないので(喩えが変だが「姑息」という単語の意味を日本人の半分以上は勘違いしているように)、ひねくれ者の自分(笑)としてはそういう考えに噛み付いてみたくなる。つまり世間の電王戦の論評」に対する論評

まず「コンピュータの圧勝」というところについて。「圧勝」という言葉をシンプルに考えるなら「終始一方的に押し込んで勝つ」と言ったところだろう。…だが、よく考えると将棋というゲームはそういう結果になる  どちらかミスをして、それを相手がとがめて一方的に押し切って勝つ  事が多い、それこそトップ棋士同士の対局やタイトル戦でもそういう将棋になることがあるくらいである(無論双方に実力差があればそういう結末になる可能性は高くなるわけだが)。
こういう時に負けた相手に対してよく使われる業界用語(?)として「不出来な将棋」というのがあるが(無論実力を認められている人にしか使われない)、今回の対局も菅井五段にとって(本人がどう思っているかはともかく)「不出来な将棋」のひとつではなかろうか、と思う。
つまり、何度もやって何度も同じ結果になるのならともかく、たった1局の将棋の結果だけを見て「完全に人間を超えた」などという評価をするのは実に頓珍漢な話(あるいは「発言者は将棋というゲームをわかっていない」事の証左)だと言える。勿論そのミス(個人的には53手目▲4六飛が最終的な敗因ではなかろうかと思う)咎め、そしてそこで得た優位を保ったまま最後まで押し切った習甦の強さは認めざるを得ないところである(一度得た優位を最後まで保ったまま勝ち切るのがいかに至難であるか、は将棋を指す人なら誰もが痛感していることだと思う)。

「早くトップ棋士(羽生三冠とか)を出せ」とか「出し惜しみするな」という論評も多く見かける。ただ、実際問題としてタイトルホルダーがそういう場面に登場するには主催者(例えば竜王だったら読売新聞社)の了承が必要になる(挑戦者も同様で、今回の出場者が何かしらの棋戦の挑戦者となった場合は他の棋士と交代する予定だった)、という話を聞いたことがある(つまり簡単には出せないらしい)。
その手の問題は置いておくとしても、もしプロ棋士側が「本気で電王戦を勝ちに行く」のだったら、必ずしもトップ棋士で5人揃える必要はない、と思う。
…どういう事か。今回の対局に際し、菅井五段は「対コンピュータの必勝法を見つけて勝っても明日からの自分に繋がらない」「ギリギリの将棋を大舞台で指したい」といった趣旨のコメントをしている。これらの発言は全く持って共感できる一方で、かつて故・米長邦雄永世棋聖が遺した(「われ敗れたり」で書いている)「対コンピュータということを考えず、人間同士のときと同じように指したとすれば、プロ側があぶない」「人間と戦うつもりで指したら思わぬ不覚をとるかも」という文言を思い出した(そしてその予言?は見事に的中している)。
…これらが意味するところは「徹底して対COMの戦略戦術(欲を言えば必勝法)を練った上で臨めるのならばトップ棋士でなくても勝てるだろう」という事。わかりやすい例を挙げれば第1回電王戦で米長邦雄永世棋聖が指した「2手目△6二玉」のような手。あの時は永世棋聖のワンミスをとがめられて最終的にはボンクラーズの「圧勝(と知ったかぶりが言いそうな結末)」となったが、現役引退から8年経っている永世棋聖があの局面まで持って来たことを考えたら、(読みや勝負勘の衰えていない)現役のプロ棋士が同じような戦法で臨んだら完璧に押さえ込んで逆に「圧勝」する可能性が高かったと思うましてや研究熱心な今の若手棋士ならその手の研究はある意味「得意分野」だと思う。
しかし菅井五段(や第2回で敗れた棋士)はそういう戦法を取らなかった。永世棋聖の言葉で言うなら「人間同士のときと同じように指した」。現在のCOMの性能(特に中終盤でのミスがない)を考えたらかなり危険な方法で臨んだ。結果は敗れたが、だからと言って菅井五段のやり方を非難することはできまい。
菅井五段は自らそういう方法を拒否した、そうでなくても現役のプロ棋士には通常の公式戦があるので対COMに特化した(対人間に役立つとは思えない)戦法を研究する余裕があるとは考えにくい(米長永世棋聖は既に引退されていたからこそ「対COM専用の戦略」を考える時間があった)。つまり今の条件(開催時期など)で電王戦を続けるのだとしたらトップ棋士が出ても「危ない」かも知れない。

例えば電王戦を9月開催とし、対局日から遡って120日くらいを休場(対局は前倒しでできるだけ消化するがどうしても無理な場合は仕方ないので不戦敗)として研究期間とする、というスケジュール(※1)ならプロ棋士もはっきりと「結果」を求める(求めざるを得ない)かも知れないが、そうすると電王戦が終わった後の公式戦=対人間のための研究から置いていかれてしまう長期的に見ると相当なマイナスになるので電王戦に参加する棋士が現れない、という可能性もある。
それでも何とか出場をお願いするとしたらそれに見合う対局料を用意しないと釣り合わないと思う。例えば森下九段だったら安く見積もっても1億7100万円(※2)くらいはもらわないと割に合わない(本人が良くてもファンが許さない)と思うのだが、果たして1局の将棋にそんなに金を出せるものだろうかドワンゴならポンと出すかも知れないが)…

…書いているうちに森下九段のことが気になってきた(笑)。近況は5連勝(未放映のテレビ棋戦を含む)の後に3連敗。まして順位戦最終局(3月13日、対村山六段=当時)は「バカすぎる」と自分に呆れ果てるような逆転負けを喫した事が尾を引かないか、と不安になる。
その森下九段のイベント『2014年春・順位戦解説会/~電王戦を戦い終えて思うこと~』の詳細が決定、受付が開始された。電王戦の観覧応募には二の足を踏んだ(?)自分だが、こちらは往復の交通手段や宿泊場所などを含めて光速で申し込み完了(笑)。 …「春」と季節が銘打ってあるので今年の秋か冬にもう一度やるのかな?(是非やってほしいです
日時は4月12日の13:30~16:30、ただし
「受講される皆様の反応によりまして講演時間延長もございます」
これまでの解説会の傾向から黙っていても1時間は延長される可能性が高い(笑)が、最大4時間くらいなら延長されても構いませんよ(笑)。

最後に対局で使用されたロボットアーム「電王手くん」について、実際に相対した菅井五段が
「本当に集中できた。(人間より)いいかも知れない」
と言ったのには驚かされた。もっともこれは「修行時代に24で年間10,000局指した」と言われる、つまり機械と対面して将棋を指す事に慣れている菅井五段ゆえの感覚かも知れないので、他の4人がどういう感触・感想を抱くかはわからない。4月の解説会ではその点についても聞けそうなので楽しみである(笑)。


※1…「9月」としたのは順位戦の序盤(B2以下なら4局)を電王戦後に延期、という対応ができるから(昇降級のかかる後半戦を延期にはできないし、まさか棋士生命を左右する順位戦を不戦敗にもできまい)。

※2…電王戦に集中した結果「公式戦に復帰した時に力が落ちていない」という保証はどこにもないので、それに対する補償を含めた金額。
「基本対局料5000万円」+「電王戦休場がなければ70歳まで現役でいられるという仮定(あと22年)」×「補償額を1年あたり550万円(現在の年間対局料等を勝手に推測、その7掛け)」という実に適当な計算ですけど(笑)。