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それって早い話「金儲けのための忖度」って事では。

法律上「馬券(や舟券)を買えない人」は誰?

競輪場の職員が車券を購入して書類送検された、というニュースがあった。少し前にも笠松競馬の関係者が馬券を買った事で大問題になったし、ボートレースの八百長問題も選手の親族が舟券を買った事が問題視(?)された。

よく「選手(騎手を含む。以下同様)本人だけでなくその家族も関係する投票券を買う事はできない」と言われるが、実際のところはどうなのか。

…結論から書いてしまうと、上記の俗説は間違い。選手本人が関与する投票券は間違いなく購入禁止だが、各種法律では「選手の家族は投票券を購入し、又は譲り受けてはならない」という条文はどこにも記載されていない。

各競技の投票券購入についての条文を引用すると、

 

競馬法

第二十九条 次の各号に掲げる者は、当該各号に定める競馬の競走について、勝馬投票券を購入し、又は譲り受けてはならない。

 競馬に関係する政府職員 中央競馬の競走及び地方競馬の競走並びに日本中央競馬会都道府県又は指定市町村が勝馬投票券を発売する海外競馬の競走
 日本中央競馬会の役員及び職員 中央競馬の競走及び日本中央競馬会勝馬投票券を発売する海外競馬の競走
 日本中央競馬会が第二十一条の規定により委託を受けて競馬の実施に関する事務を行う場合におけるその役員及び職員であつて当該委託を受けた事務に関係するもの 当該委託に係る競馬の競走
 都道府県、指定市町村又は地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百八十四条第一項の一部事務組合若しくは広域連合(以下この号において「都道府県等」という。)の職員であつて当該都道府県等が行う競馬に関係するもの 全ての地方競馬の競走及び当該都道府県等が勝馬投票券を発売する海外競馬の競走
 都道府県、市町村又は地方自治法第二百八十四条第一項の一部事務組合若しくは広域連合が第四条又は第二十一条の規定により委託を受けて競馬の実施に関する事務を行う場合におけるこれらの職員であつて当該委託を受けた事務に関係するもの 当該委託に係る競馬の競走
 協会の役員及び職員 全ての地方競馬の競走及び都道府県又は指定市町村が勝馬投票券を発売する海外競馬の競走
 中央競馬の競走に関係する調教師(競走馬の飼養を行う者を含む。以下同じ。)、騎手及び競走馬の飼養又は調教を補助する者 中央競馬の競走
 地方競馬の競走に関係する調教師、騎手及び競走馬の飼養又は調教を補助する者 全ての地方競馬の競走
 日本中央競馬会都道府県又は指定市町村が勝馬投票券を発売する海外競馬の競走に関係する調教師、騎手及び競走馬の飼養又は調教を補助する者 当該海外競馬の競走
 その他競馬の事務に従事する者 当該競馬の競走

 

モーターボート競走法(ボートレース)

第十一条 次の各号のいずれかに該当する者は、当該各号に掲げる競走について、舟券を購入し、又は譲り受けてはならない。

 競走に関係する政府職員及び施行者の職員にあつては、すべての競走
 競走実施機関の役職員及び競走の選手にあつては、すべての競走
 前二号に掲げる者を除き、入場料の徴収、舟券の発売等、競走場内の整理及び警備その他競走の事務に従事する者にあつては、当該競走

 

自転車競技法(競輪)

第十条 次の各号のいずれかに該当する者は、当該各号に掲げる競輪について、車券を購入し、又は譲り受けてはならない。

 競輪に関係する政府職員及び競輪施行者の職員にあつては、すべての競輪
 競輪振興法人及び競技実施法人の役職員並びに競輪の選手にあつては、すべての競輪
 前二号に掲げる者を除き、車券の発売等、競輪場内の整理及び警備その他競輪の事務に従う者にあつては、当該競輪

 

小型自動車競走法(オートレース

第十四条 次の各号のいずれかに該当する者は、当該各号に掲げる小型自動車競走について、勝車投票券を購入し、又は譲り受けてはならない。

 小型自動車競走に関係する政府職員及び小型自動車競走施行者の職員にあつては、すべての小型自動車競走
 小型自動車競走振興法人及び競走実施法人の役職員並びに小型自動車競走の選手にあつては、すべての小型自動車競走
 前二号に掲げる者を除き、勝車投票券の発売等、小型自動車競走場内の整理及び警備その他小型自動車競走の事務に従う者にあつては、当該小型自動車競走
 
※どの法でも上記の前後に「未成年者は買っちゃダメ」に相当する条項がある。
 
前述の(豊橋の)競輪場職員は第十条第一項に抵触している【*1】。笠松競馬の騎手や調教師は第八項(つまり「笠松競馬の関係者が大井競馬の馬券を買う」というのもNGである)に違反、という疑い。
…だが一方で選手の家族や親族が投票券を購入してはいけないという条文はどこにもない。また同じく俗説として流布している「選手の家族は当該競技場に入れない」に関する条文も(各種法律を全文読んだが)どこにも存在しない。ちなみに選手が「他の競技」の投票券購入については何の制限もない【*2】。
では何故こういった俗説が世間に根付いているのだろうか。調べても正確なところは分からなかったのだが、自分が見つけたところでは
・ボートレースは家族が舟券を購入すると「その購入に関して選手本人が不正等に関与していなかったか」という事を徹底的に調査・追及されるので「家族には舟券購入を自粛するようお願いしている」らしい
・競輪選手の家族は「事前に申請すれば競輪場の一定の区画には入場できる」らしい
…という話があるそうなので、これらが拡大解釈ないし曲解されて「法律で買えない・入れない」という俗説になったのではないかと思われる。…やはり噂とか俗説というのは正確に伝わらないものらしい(笑)。ちなみにボートレースの八百長舟券購入ではなく贈収賄にかかる容疑(選手は同法第七十二条、共犯者は第七十五条)で逮捕された。
 
…ここでちょっと気になった事。ボートレース等は「警備員は当該競走の投票券は買えない(例えば浜名湖の警備員は「浜名湖のレース」はダメだけど「蒲郡のレース」は買える)」という風に書かれているが、「競馬場の警備員」については記述がない。とりあえず「競馬場の警備は主催者から委託された警備会社が行っている」という事はハッキリしているので、該当する可能性があるのは上記の第三項(地方競馬だったら第五項)。この場合制限は「当該委託に係る競馬の競走」なので「その競馬場の馬券はダメ」だが「他場開催の馬券は堂々と(?)買える」という事になる。つまりパドック担当の警備員だったらパドックを特等席(?)で見れるが、その人が馬が出て行った後に投票…というのは「法的にアウト」の可能性がある。…そこまでする人がいるのかは別にして(笑)。

*1:何となく「他所の開催競輪は買ってもいい」という気にもなってしまうが、条文にあるように「全ての競輪(の投票券購入)がNG」である。

*2:佐藤哲三元騎手がボートレース好きで現役期間中も度々びわこに出没?し、「投票する側」の考え方を騎手としての姿勢に反映させていた、という話は有名。